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空冷式CO2冷凍機の持つ潜在能力 芳雄製氷が冷蔵倉庫業界で広げる新たなソリューション

2018年6月20日、一般社団法人日本冷蔵倉庫協会の会員を対象として、福岡県にてCO2物流センターの施設訪問ツアーが開催された。訪問先企業の1つである穂波第二センターを2018年4月から開業したのが、小金丸滋勝氏が代表取締役社長を務める芳雄製氷冷蔵である。新技術への投資という大きな一歩を踏み入れた小金丸氏の心中と、社内外で精力的に進める取り組みを取材した。

 

文: 佐藤 智朗、岡部 玲奈

2ヶ月間の運転で実感した省エネ効果の片鱗

福岡県飯塚市にある芳雄製氷冷蔵株式会社(本社:福岡県)の穂波第二センターは、-25℃に冷えた4,700㎥(1,880設備トン)の冷蔵庫が設置されているほか、1,050㎡の低温室と750㎡の荷捌き室が用意されている。

 

中小企業が多いという事情を抱える冷蔵倉庫業界では、コストと利便性という点からR22が使用冷媒の中心的存在であり、2016年の調査ではその使用率は67.6%になることを、小金丸氏は2018年2月に東京・品川にて開催された自然冷媒国際会議「ATMOsphereJapan 2018」のエンドユーザーパネルでも紹介している。

実際、同社でも穂波第二センター以外に2 施設の冷蔵倉庫を保有しているが、そこで使われている冷媒のほぼ100%がR22であることから、今回のCO2冷凍機導入が大きな方向転換であることが窺えるだろう。現在穂波第二センターでは、日本熱源システム株式会社(本社:東京)のCO2単独冷媒機器「スーパーグリーン」を3 台、それぞれ冷蔵庫、低温室、荷捌き室にて1台ずつ稼働させている。

 

同センターでは2018 年4月に冷蔵庫の運転を開始させた。その運転効率を尋ねたところ、電気使用量の平均が1設備トン当り年間換算で約80kwhであると明かした。冷凍冷蔵倉庫業界の電気使用量平均が150kwh前後である点から比較しても、約50%という大幅な省エネ効果を発揮しているという結果になったと、小金丸氏は語った。

CO2冷媒に寄せる強いこだわり

芳雄製氷冷蔵株式会社 代表取締役社長 小金丸 滋勝氏

小金丸氏がCO2直膨式のシステムを知ったのは、今から約10年前の2007年のことだったという。「当時、パナソニックが-25℃対応のCO2ユニットを開発していることを知りました。しかし、大型の冷蔵倉庫に使用できるようになるにはまだまだ先の話という認識だったのです」と、小金丸氏は当時のことを語る。しかし、2016年に開催された一般社団法人日本冷蔵倉庫協会の総会にて、日本熱源システムが冷蔵倉庫でも運転可能な冷凍能力を有するCO2ユニットを開発したというニュースを耳にした同氏は、早速メーカーへコンタクトを取った。

 

「技術的な話を詳細に聞いた結果、それは十分に利用できるレベルに達していると判断しました。そこで、私達はオープンを計画していた穂波第二センターに、このシステムを導入することを決定しました」

 

小金丸氏に自然冷媒機器使用への懸念について尋ねると、「日本熱源システムから話を聞いた段階で、直感的にこれはいけると感じていました」と、強い確信があったという。アンモニア直膨式やアンモニア/CO2機器が冷蔵倉庫業界の中心機器であった現状に対して、CO2直膨式という選択をした小金丸氏。そこには、同氏の強いこだわりを感じさせる。

 

過去、同社の工場でアンモニア設備を運転管理した経験もある小金丸氏にとって、アンモニアの取り扱いは常に危険と隣り合わせであったという。今よりも安全基準が曖昧だった当時、液もれがきっかけでやけどを負うなど、軽微な怪我に繋がることもあった。こうした経験を持つ小金丸氏が、従業員の安全を慮ってアンモニア冷媒を選択肢から除外し、毒性のないCO2へ舵を切ったというのは、ごく自然な流れだったという。

 

「CO2×空冷式」こそ最善の選択

CO2直膨式システムの中でも特に、「スーパーグリーン」の導入に至ったのには、いくつかの決め
手があった。1つ目は「圧力」の問題である。従来のCO2機器は気液循環型で、約8MPaの高圧で冷媒液を循環させるため、気体と液体の混合物をクーラーへ送り冷却するシステムを取っていたのである。それに対して同機の場合は、臨界点以下である約3.5MPaにまで圧力を下げて供給できるため、運転効率が改善されCOPが大幅に改善されるだろうと小金丸氏は感じていた。

倉庫内で稼働するGüntner 製CO2 ユニットクーラー

運転・メンテナンスの面で比べても、同機種の圧力はR410AなどのHFC冷媒より3割ほど高い程度に抑えられる点も大きかったという。2つ目は、同機で使用されているヨーロッパの部品メーカーが担保している「高品質な部品」だ。小金丸氏は日本熱源システムの代表取締役社長である原田 克彦氏と共に、提携先であるドイツのメーカーを実際に現地視察している。

 

訪問企業はドイツを中心に、世界でも最も有力な大型冷凍機メーカーの1 つであるGEA グループのBockやGüntnerなど。各社の生産現場を目の当たりにした小金丸氏は、「これまで、私は日本の技術が最高と盲信していました。しかし、ヨーロッパはあらゆる面で先を走っていたのです」と明かした。「繊細さや細やかな製造技術が日本の売りではありますが、ヨーロッパの製品は効率を重視しつつ、それでいて肝心な部分は壊れないような精緻さも持ち合わせていました。元々CO2ユニットの導入に前向きだったものの、この視察でその思いはさらに強固なものとなりました」

 

最後に、同機が「空冷式」であったことが大きな決め手であったと小金丸氏は言う。冷蔵倉庫業界において、「空冷よりも水冷式」という認識を持っている事業者は非常に多い。しかし、小金丸氏は災害時のインフラ復旧とメンテナンスという2つの側面から、水冷式にはデメリットが多いと指摘する。

CO2 で冷やされた穂波第二センター内部

「震災や津波などの災害時に、インフラ復旧で最も時間を必要とするのが水とガスです。電気の復旧は意外と早い。万が一の事態が起きても、なるべく運転再開の目処が立ちやすい空冷式の方が使い勝手がいいのです。また水冷式の場合、ポンプやコンデンサが汚れやすいという問題を抱えています。空冷式であれば、コンデンサの洗浄は室外機を洗うだけで、3年に1度ほどの割合で専門業者に委託すれば事足りるので、メンテナンスコストから見ても空冷の方が優れているのです」

 

加えて、地域性で考えても空冷式にはメリットがある。「私は最も空冷式の使い勝手が優れている地域は沖縄であると思っています。ウェットバルブの高い地域は、空冷技術を採用して顕熱でコンデンスする方が高効率を実現できると思います」

自らが営業マンとなって検体を増やしていきたい

芳雄製氷は環境省による2017年度の自然冷媒機器導入補助金制度「脱フロン社会構築に向けた業務用冷凍空調機器省エネ化推進事業」を活用し、CO2機器導入を実現した。「中小零細の企業が大半を占める冷蔵倉庫業界は、ある意味で脆弱な業界と言えます。その中で工場の設備・機械を入れ替えるというのは、非常に大きな投資になってしまいます。だからこそ、導入費用の半額を負担してくれる補助金はとてもありがたい存在です」と、小金丸氏は語る。

施設訪問ツアーの様子とCO2冷凍機

日本冷蔵倉庫協会は、別組織である「低温物流の未来を考える会」にて、政府関係者と交流し、補助金の増額や延長措置、また税制優遇といった様々な陳情を出しながら、自然冷媒への切り替えの流れを止めないようにしている。行政サイドのみならず、業界関係者への啓蒙も欠かさない。「今回の見学ツアーでは、CO2物流センターを見るために、冷蔵倉庫業青年経営者協議会と冷蔵倉庫業経営者協議会の2つの団体から60名ほどが参加しています。個別に見学したいと言う企業もあり、導入を検討している関係者が増えてきたのを強く感じます。未だCO2直膨式に関して実際に冷えるのかなど、懐疑的なイメージを抱いている方も多いですが、センターをご覧になれば、疑心暗鬼も解消され安心する方は多いことでしょう」と、小金丸氏は自信をのぞかせる。

 

CO2機器の導入実績が増えることは、環境保全の他にどのような好影響を芳雄製氷にもたらすのだろうか。この質問に対して小金丸氏は、検体個数が増えることで、様々な有益な情報がデータベースとなって蓄積されることだと答えてくれた。「研究段階での数値と実際に稼働させての数値では、どうしても差異が生じます。導入例が増えて実際の運転データを収集できれば、トラブル時やメンテナンス時でも効率的に機器を運用することができるでしょう。導入例が増えれば増えるほど、私達にとっても大きなメリットとなるのです。私は新しい技術が好きで、開発陣に対してフィードバックできることに大きな喜びを感じます。業界関係者にCO2ユニットを進めるモチベーションも、この思いに起因しているのでしょう」

 

納入件数がまだ少ない今こそ、データベース作りに着手し、今後の傾向・予測が立つ状態を構築するチャンスなのだと、小金丸氏は述べた。インバーターやバルブのコントロールが秀逸で、狙い以上の高効率な運転を実現できていると、小金丸氏は同機器を高く評価する。芳雄製氷は今後さらに運転データを蓄積しながら、初のCO2単独冷媒機器に生じる小さな課題に対処しつつ、さらなるCOP向上に繋がるようメーカーへ提案していく考えだ。そのユーザーとしては珍しい技術への積極的な姿勢が、冷蔵倉庫業界の自然冷媒機器採用増加の起爆剤となることを期待しつつ、同社の動向を見守りたい。

 

『アクセレレート・ジャパン』20号より

参考記事:

ATMOsphere Japan2018 開催レポートより