業務用ショーケースの炭化水素充填量引き上げについて、欧米はどちらも動きがで非常にゆっくりと最終的な採用に向けて動いている。
家電やHVAC産業向けの冷凍コンプレッサーやコンデンシングユニットなどの部品を製造するEmbraco社(Nidec Global Appliance社)のR&Dディレクターであり、国際電気標準会議(IEC)SC61Cの冷凍製品安全規格化小委員会の委員長でもあるマレック・ジグリチンスキ氏はそう評価する。
欧米の規制動向
IEC SC61C小委員会の尽力により実現した、2019年にIEC 60335-2-89第3版を発行。これにより、プラグイン業務用ショーケースにおけるA3(可燃性)冷媒の充填上限が、下限燃焼性限界(LFL)の13倍(R290では約500g)に引き上げられた。
IECの規格は、地域団体の指針となるグローバルモデルとなる。019年以降、ブラジルなど多くの国が炭化水素の高充填量を採用している。2020年にはオーストラリア/ニュージーランド版の-89規格が、2021年には日本のJIS規格が改正・発行された。
しかし、炭化水素系ショーケースメーカーは、高充填量の新機器を本格導入する前に、「米国と欧州の承認を待っている」とジグリチンスキ氏は話す。
北米では、2021年10月にアメリカ保険業者安全試験所(UL)がUL 60335-2-89規格の第2版を発表し、炭化水素とA2L冷媒の充填量上限を引き上げることが最初の承認となった。
新しいUL規格では、業務用プラグインショーケースの充填制限を、冷媒のLFLの13倍(R290では約500g)まで引き上げたが、これは扉の付いていないタイプに限定される。扉や引き出しのある密閉型機器の充填制限は、可燃性冷媒のLFLの8倍(R290の場合は300g)に引き上げられた。
しかし、米国環境保護庁(EPA)は高充填量を米国で実施する前に、米国オゾン層破壊物質規制(SNAP)で採用する必要があるとしている。EPAのウェブサイトによると、高充填量に対応する規則案は今年6月に出されるものの、確定するのは2023年7月と予想されている。
EPA広報担当者のエネスタ・ジョーンズ氏は、EPAのSNAPプログラムは、2021年10月27日にUL 60335-2-89規格第2版が最近発行されたことを認識していると述べる。その上で、SNAPは小売食品冷凍装置に対するプロパンや他の可燃性冷媒の既存要件を見直す第一歩として、その規格を検討していると話した。
その他の関連する動きも進行中だ。例えばアメリカ暖房冷凍空調学会(ASHRAE)は、新しいUL 60335-2-89規格をASHRAE-15のアプリケーション安全規格にまもなく取り入れる予定であると、ジグリチンスキ氏は話す。
ASHRAE-1規格は、2024年の建築基準法の更新に組み込まれ、その後、地方や州の建築基準法に採用されると予想される。
しかし、炭化水素充填量の多い機器の製造・販売を開始するためには、これらの法規制の採用は必要ないと環境調査庁(EIA)の気候キャンペーン担当上級政策アナリスト、クリスティナ・スター氏は指摘する。同氏は、市場導入の主な障壁は、ULとEPAの承認だと話す。
一方、欧州(EN)規格の発行を担当する欧州電気標準化委員会(CENELEC)は、EN 600335-2-89に基づく業務用キャビネットの炭化水素の500g充填量制限の確定を間近に控えている。「欧州は最後だ」と、ジグリチンスキ氏は口にした。
実際、更新されたEN 600335-2-89規格の草案が2021年に賛成票を獲得しており、2022年半ばには発行される見込みだという。発行後、この規格を産業界が追随するには、EU機械指令(MD)との整合規格のリストに掲載される必要がある。ジグリチンスキ氏は、それが2022年末までに実現すると予想している。
EUでは、別の規格であるEN378により、1.5kgまでの炭化水素のチャージが陳列棚で許可されているが、これも状況に応じて採用されているのが現状だ。
市場への影響
業務用冷凍冷蔵分野における、R290の充填量引き上げについては、スーパーマーケットでの炭化水素機器の採用を増やす方法として以前から考えられてきた。この議論は、特に現在の充填量である150g制限により、複数回路の使用を余儀なくされている大型ショーケースを対象に交わされている。
しかし、業務用ショーケース業界は、すでに150g充填量を基準に世界中へ何百万台ものショーケースを設置してきた。ジグリチンスキ氏も、150g充填量で、大部分のショーケースをカバーできることを認めている。
大型ショーケースにメリットの大きい充填量引き上げだが、それはすなわち漏えい時の対策も十分気を付ける必要があることを意味する。
そのため、1つの回路に高い炭化水素を充填するのではなく、複数の回路を設ける方法を好むメーカーもあるとジグリチンスキ氏は述べる。
それでも、メーカーは米国と欧州が(炭化水素の高充電を)承認するのを待っているのです。
Embraco社(Nidec Global Appliance社) R&Dディレクター マレック・ジグリチンスキ氏
参考
U.S. and Europe Moving Slowly Towards Finalizing Higher Hydrocarbon Charge Limits for Cabinets
※本記事は英語で作成後、日本語に翻訳されております。
原著者:マイケル・ギャリー
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