国内でも最大規模を誇る物流センターが、大田区平和島に誕生した。東京団地冷蔵が、昨年3月に自社の物流拠点を大きく刷新したものだ。2棟体制で稼働する同センターは、計26台のアンモニア/CO2冷凍機を使用しており、安全性と省エネ性、そして物流効率向上のための様々な新技術の搭載や仕掛けが施されている。同社は施設の一括改装という大きな試みを遂げ、今なおさらなる改善の道を模索している。
文: 佐藤 智朗、岡部 玲奈
国内最大規模の倉庫誕生
2018年2月28日、東京団地冷蔵株式会社は、大田区平和島の既存の物流拠点を一括改装した新冷蔵倉庫を竣工させ、翌3月1日に稼働し物流事業を再開させた。旧来は9棟からなる物流倉庫だったが、改装により北棟(A 棟)、南棟(B 棟)の2棟体制に集約。合計収容能力は177,873tを誇り、中でも北棟130,023tと、1棟での収容能力は国内最大規模となる。
現在同倉庫の北は、株式会社ニチレイ・ロジスティクス関東、山手冷蔵株式会社、東京豊海冷蔵株式会社、東京定温冷蔵株式会社、株式会社協冷、アルフア冷蔵株式会社、五十嵐冷蔵株式会社、日水物流株式会社、株式会社ベニレイ・ロジスティクスの9社が。そして南棟は東洋水産株式会社、松岡冷蔵株式会社、兼松新東亜食品株式会社、株式会社マルハニチロ物流の4社がテナントとして借庫している状態で、それぞれ稼働する。

1960年代の高度経済成長期の折、都心部への人口・産業の過集中によって道路が混雑し、物流拠点も散在していたことから効率低下の懸念の声が上がった。1966年、政府は「流通業務市街地の整備に関する法律」を制定し、流通機能の向上と道路交通の円滑化を図った。そして、翌年1967年3月9日に、政府方針に合わせ冷蔵業者が共同して設立したのが、東京団地冷蔵である。各社の集荷・出荷が一カ所の物流拠点に集約する、いわゆる「団地方式」を取った同社の冷蔵倉庫は、大田区平和島に設立。1969年より建設工事が始まり、1976年に全9棟が完成。当時は東京湾に集まる畜肉の3割が、この冷蔵倉庫に集約された。
大田区平和島は、環状7号線の整備によって理想的なハブ環境を実現させ、東京港で最大のコンテナ埠頭である大井コンテナふ頭の設置や横浜港の整備など、国土交通省の定める「国際コンテナ戦略港湾整備事業」の対象となる好立地に成長。またモノレール流通センター駅が開通したことで、交通の便も発達していった。大田区平和島の冷蔵倉庫の運営から約40年。首都圏の物流を支えた同社は、老朽化に伴う設備改装の必要性に迫られることに。加えて全9 棟ある敷地の区画内道路では、スペース不足による混雑も発生するようになった。抜本的な施設改革が迫られる中、2011年に東日本大震災が発生。これを機に、同社は現有地での施設改装を決意する。
翌2012年より計画が発表、2015年に一度操業を休止して着工を開始。全9 棟の倉庫の解体に1年、新築に2年の計3年をかけて、新冷蔵倉庫が誕生した。新センターは物流面では区画内道路の刷新と共同管理システムの導入により、スムーズな物流体制を実現。セキュリティーシステムや免震構造の採用により、安全面にも配慮している。区画整備で大規模倉庫にしたことで、省エネ性も高める結果となった。今回の大胆な一括改装計画の早い段階から、施設の持続可能性および環境面を見越して、自然冷媒機器の導入が決定されたという。

最新技術の搭載および物流効率の大幅改善は、外部からの注目も熱い。倉庫稼働後は、同業者や政府関係者の見学依頼も多い。またこの最新鋭の体制に対し、株式会社日本政策投資銀行は、環境や社会への配慮がなされた不動産だとする「DBJ Green Building 認証」を、同物流センターに付与した。
持続性を見据えた自然冷媒という選択
国内最大級の冷蔵倉庫を冷やす冷凍機に自然冷媒を選択した同社は、北棟のF級倉庫には、株式会社前川製作所のアンモニア/CO2冷凍機「NewTon R-8000」を11台、C級倉庫には同じく前川製作所のアンモニア/CO2冷凍機「NewTon C」を9台の合計20 台を設置した。また南棟のF級倉庫は、三菱重工冷熱株式会社のアンモニア/CO2冷凍機「C-LTS-N1251F-w」を4台、C級倉庫には同じく三菱重工冷熱のアンモニア/CO2冷凍機「C-LTS-N1250C-w」を2 台設置した。
イニシャルコストが従来フロン機よりも高いにも関わらず、国内でも類を見ないこの大規模な自然冷媒機器導入に対して、社内ではフロン規制の認識から反対意見は特に出なかったという。2社が選ばれた背景について、施設管理部マネージャーの都甲 貴之氏は、「国内で、同センターのような大規模な工事に対応できる業者は少ない状況でした。高い技術力と実績を兼ね備えている業者を探した結果、最終的にこの2社にまとまりました」と語る。環境省による自然冷媒導入に対する補助金制度については、東京団地冷蔵は南棟では2016年度「先進技術を利用した省エネ型自然冷媒機器普及促進事業」を、北棟では2017年度「脱フロン社会構築に向けた業務用冷凍空調機器省エネ化推進事業」をそれぞれ申請、活用した。
「環境省の補助金は、現在業界にある『自然冷媒が主流』という考え・流れを作った要因の1つであり、今後も業界にとって重要な施策となるでしょう」と、常務執行役員の鈴木 一央氏は言う。

さらなるパフォーマンスアップを
稼働から約1年が経過し、自然冷媒機器の運転状況を尋ねると、「良好」との答えが返ってきた。その上で鈴木氏は、「それでも、やるべきことは山積しています」と語る。例えば現在、機器の各種運転設定の調整を試行錯誤しているという。従来のフロン機と異なるため、冷やすために倉庫内に送り出されるCO2冷媒の温度設定値など、未だ調整可能な部分が多々あり、メーカー側で設定した数値とは別に、自社でも設定を微調整している。
新倉庫は規模が大きく、数多くの冷却器が稼働する。ひとつひとつの稼働時間や冷え方は、外気温による影響をはじめとして、倉庫作業の繁閑から機器の運転設定に至る様々な要因が影響する。そうした傾向の変化を毎日データとして収集し、定期的にメーカー側と分析・共有するという作業を、稼働してから現在も続けている最中だ。「自社にとって、また国内市場にとっても、アンモニアを一次冷媒、CO2を二次冷媒とした冷却システムであるアンモニア/CO2機器は歴史が浅く、運転技術は未だ改善の余地があります。運転管理基準が成熟していないからこそ、メーカーサイドの運転設定も、安全性をより重視したものになりがちです。だからこそ、ユーザーとしての私達ができることは、さらなるパフォーマンスアップの可能性を探ることと、自社技術者の育成と言えるでしょう」と、都甲氏は説明する。

運転データの蓄積とメーカーへの共有は、結果としてメーカーが定める各種設定の見直しを促し、それが機器のパフォーマンスアップと柔軟性の改善、機器の再評価にも繋がる。同時に、東京団地冷蔵としては、最新のアンモニア/CO2システムという新技術を採用したことをきっかけに、評価判断基準や、省エネ値などの目標数字の実現に向けたプロセスも、新たなステージとして対応していく必要がある。同社の自然冷媒機器を効率よく使用する上での模索は今もなお続くが、最後に鈴木氏は自然冷媒の重要性を説く。「環境経営は企業の財務面への貢献はもちろんのこと、全てのステークホルダーの価値を高めます。自然冷媒採用も、その一環です。キガリ改正をはじめとしたフロン規制が一層進む現在において、持続可能性のある投資と自然冷媒の採用は、ほぼ同義と言っていいでしょう」
『アクセレレート・ジャパン』25号より