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世界の自然冷媒市場を牽引する政策動向(2022年特別号『アクセレレート・ジャパン』掲載記事)

自然冷媒システムの成長には、各国の政策が大いに関係している。高GWPの冷媒使用の制限・禁止といった規制は、自然冷媒システムの採用増加に直接関与することとなるだろう。一方、時代遅れの規制が、自然冷媒システムの導入を制限することもある。ここでは、世界各国の自然冷媒市場に影響を与える政策動向を紹介したい。

世界のトレンド「ネットゼロへの競争」

ネットゼロを誓約した国は、2021年から急速に増加。現在では、世界のCO2e排出量の約70%をカバーするにまで至っている。国際エネルギー機関(IEA)によると、産業部門の冷暖房部門はネットゼロが最も進んでいるという。

 

国連が支援するグローバルキャンペーン「Race to Zero」は、企業、都市、地域、金融、教育機関など非国家主体に、2030年までに世界の排出量を半減し、より健全で公平な脱炭素社会を実現するための厳格かつ迅速な行動を呼びかけている。現在は31の地域、733の都市、3,067の企業、624の教育機関、173の投資家、3,000以上の病院からなる、ネットゼロの主要イニシアティブ連合が形成されている。

 

「Race to Zero」は、他のグループと同様にEIAの「Pathway to Net-Zero Cooling Initiative」を支援する。このイニシアチブには、パッシブ冷却、超高効率機器、超低GWP冷媒・断熱発泡ガスの3つの要素が含まれている。

欧州の政策動向

EUのFガス規制は、HFCから自然冷媒への、気候変動に配慮した代替ソリューションへ移行するための画期的な気候変動対策法である。Fガス規制の更新が実施されてから約6年が経過し、現在2回目の改正に向けた動きが見られる。本改正は、2022年4月に完了する予定だ。

 

2020年5月に開催された関係者会議において、欧州委員会(EC)はより野心的な規制改正にしたいという意向を示した。具体的には、欧州グリーンディールとの整合性を高め、セクター別の禁止事項の追加、Fガスの代替品に関するトレーニング、違法取引の削減、欧州全域でのFガス関連罰則の統一に注力するなどが主な内容だ。

HFC、HFOがREACHで制限される可能性

欧州のHVAC&R業界に大きな影響を与える動きとして、EU5カ国(ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク)は2021年7月15日、「一部のHFCおよびHFO冷媒を含むパーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質(PFAS)」を制限する共同提案を、REACH規制下で2022年7月までに欧州化学品庁(ECHA)に提出する方針を明らかにした。5カ国は現在、本提案について関係者からのフィードバックを求めている。

 

4,700以上の「永遠の化学物質」と称される物質を代表するPFASは、多くの消費者製品の製造に使用されているが、PFASへの暴露は人の健康に害を与える可能性がある。PFASのトリフルオロ酢酸(TFA)は、HFO-1234yfとHFC-134aの大気中分解生成物である。欧州化学品庁(ECHA)への制限提案の提出予定日は、2023年1月だ。

欧州の炭化水素充填量制限

2019年、国際電気標準会議(IEC)はIEC 60335-2-89規格を更新し、市販ケースにおけるR290などの炭化水素の充填許容量を150gから500gに引き上げることを議決した。今後は、各国・地域が独自にIEC規格に準拠した規制を制定していくこととなる。

 

欧州では、欧州電気標準化委員会(CENELEC)がEN 600335-2-89に基づく業務用キャビネットの炭化水素の500g充填量制限の公表を間近に控えている。この規格が発行されると、今回の内容が2022年末までに、EU機械指令(MD)との整合規格のリストに含まれる。

米国の政策動向

長年、米国環境保護庁(EPA)は高GWP HFCを段階的に廃止する権限を持っていたが、同時にEPAの自主プログラムである「GreenChill Partnership」が、スーパーマーケットと協力してHFC漏えい削減や自然冷媒採用に取り組んできた。

 

2017年8月、米国連邦地方裁判所はオゾン層破壊ガスの代替としてHFCを使用している企業に対し、HFCから他の冷媒(自然冷媒も含む)に置き換えることを、EPAが強制することはできないと判決を下した。これを契機に、米国では自然冷媒システムの採用が後退してしまう。

 

しかし、ドナルド・トランプ前米国大統領は、政権末期の2020年12月末に新型コロナウイルス感染症救済策の一環としてAIM(American Innovation and Manufacturing)法に署名。同法により、EPAに対してHFCの段階的削減などを規制する権限を与えた。現米国大統領のジョセフ・バイデン氏は、この積極的な気候変動対策の方向性を引き継いでいる。

AIM法

2021年1月20日、米国環境保護庁(EPA)は2020年のAIM法で認められたHFC排出削減を実施するための規則制定プロセスを開始した。EUと同様に、HFC規制は米国が温室効果ガス排出削減目標を達成するのに欠かせない。バイデン大統領が、就任初日にパリ気候協定に再加盟した今、それはより重要な意味を持つ。

 

AIM法は、2036年末に米国で生産または米国に輸入できるHFCの許容量を、85%削減する権限をEPAに与えている。これは、米国が現在批准を予定しているモントリオール議定書のキガリ改正で定められた、HFCの段階的削減の時間枠を模したものだ。AIM法はまた、EPAが市場の状況に応じて2025年からの段階的削減を、加速させることも含んでいる。

 

昨年9月、EPAはAIM法に従い「ハイドロフルオロカーボンの段階的削減:米国技術革新・製造法に基づく排出権割当および取引プログラムの確立(Phasedown of Hydrofluorocarbons: Establishing the Allowance Allocation and Trading Program Under the American Innovation and Manufacturing Act、86 FR 27150)」を制定。現在も、関係者と規則案の公開会議を繰り返している。

キガリ改正への批准

バイデン大統領は、HFC規制と段階的削減、自然冷媒システムの支援など、非常に積極的な環境政策の一環として、キガリ改正案を上院に提出、批准してもらうことを承認した。キガリ改正案は間もなく上院で批准される予定だ。

米国の炭化水素の充填量制限

炭化水素の充填量制限について、米州電気技術規格調和評議会(CANENA)ワーキンググループは、関連する米国安全機関(UL)規格をIECモデルに従うよう更新した。新しいUL規格は、2021年10月にリリースされた。

 

しかし、同規格は「IEC版」とは乖離していた。IEC規格では、すべてのキャビネットに500g充填量のR290を採用できる。「UL版」では500g充填量はオープンケースのみに適用され、ドアや引き出しがある場合は300gしか認められていない。IEC規格準拠へのEPAの承認は、2023年7月に予定されている。

 

2022年度は、事業の継続の有無について多くの関係者が注視する1年となるだろう。弊誌もその一員として、政府関係者の動向に注目したい。

参考(2022年特別号『アクセレレート・ジャパン』)