2010年より、CO2冷凍機の普及と拡大を続けてきたパナソニック株式会社アプライアンス社。同社は現在、CO2冷媒に関する技術・システムをOEM顧客と共有する「CO2ファミリー構想」や、システムの大容量化、そしてヨーロッパ・東南アジアにも自社のCO2技術を進出させ、高性能な自然冷媒ソリューションで世界的にも存在感を示している。そんな同社が、タイの工場を拠点に今後市場に届けようとするのは、炭化水素冷媒ソリューションだ。冷媒の選択肢を広げようとする姿勢からは、世界で巻き起こるフロン対策および顧客へのニーズ対応、そして同社の矜持を垣間見ることができた。
文: ヤン・ドゥシェック、佐藤 智朗、岡部 玲奈
タイで生まれる炭化水素製品
タイ王国・中部、チャチューンサオ県に位置する、パナソニックアプライアンス コールドチェーン タイランドの有する生産工場。2017年度には生産能力の増強を進め、東南アジア向けの中核工場として稼働しており、主に東南アジア、そして日本向けにコンビニ用の小さなショーケースを製造している。これまで採用冷媒としてはR134a、R404aが中心だったが、2019年よりイソブタン(R600a)、プロパン(R290)といった炭化水素冷媒への移行を検討し、本格的な製品製造を検討している段階だ。
「日本も含むアジアのコールドチェーン市場では、代替フロンがいまだに残っています。しかし、フロンの削減・転換が求められる中、1、2年のうちに次なる冷媒を定めて商品開発を進めないといけない状況
だと、我々は考えているのです」と、同社の最高業務責任者を務める小幡 隆司氏は口にする。
冷媒選択において、同社は炭化水素に目を向けており、イソブタンを採用した製品を開発中。今年度中には市場での販売へ持ち込みたい考えだ。一方で、プロパン採用の製品については、環境先進国であるオセアニアエリアに向けて、アメリカの業務用冷凍・冷蔵ショーケース市場の主力企業であるHussmann(オセアニア)と連携し、検討中である。今後はラインナップの拡充に注視しつつ、安全性、省エネ性能、メンテナンス性を市場に謳っていきたいと小幡氏は言う。

炭化水素でも先駆者となれるか
日本を代表するグローバル企業であるパナソニックは、CO2技術のパイオニアという地位を確固としたものとしている。同社はそれに加えて、炭化水素の先駆者ともなれるのだろうか。「我々のようなグローバル企業は、顧客の要求に対して、フレキシブルに対応できることが至上命題であると捉えています。だからこそCO2だけでなく、プロパンやイソブタンといった冷媒の選択肢を、持つべきだと考えているのです」と、小幡氏は語る。
同社のチャチューンサオ工場は、タイ国による「RAC NAMA(タイ全土の冷凍冷蔵・空調分野での適切な緩和措置)プロジェクト」といった、グリーン冷却への転換を実行するための国際的なイニシアチブ支援を受けており、工場内に可燃性冷媒である炭化水素を充填できる設備を用意し、プロパンとイソブタン2 つの冷媒を使用した製品を並列で生産できる体制を整えたという。先々を見据えた投資は、エンドユーザーからのリクエストに短期で応えることを念頭に置いている。
数年後には新設・既設機器にはHFC 冷媒を採用しない事業構想を描いている。約5 年後の未来に向けて、炭化水素冷媒の機器開発はどこまで発展するかを聞いた。「現在はイソブタン製品の開発が先行しています。今後はプロパンのランニングコストを、どこまで抑えられるかが鍵を握るでしょう。中期的にはR134aの製品を扱っていることは想像しておらず、ほぼ100%、炭化水素に切り替えができていると思います」
そのためにも、生産地であるタイの国内市場への働きがけは必要不可欠であり、日本のような補助金制度やフロン規制強化の必要性を感じているという。一方で同社の活動が地元メーカーへの打撃になり、外資系企業との軋轢を生むことを回避するためにも、彼らと共存しつつ市場を守り育てたいというのが、パナソニックアプライアンス コールドチェーン タイランドの考えだ。
shecco が昨年2月に東京・品川で開催した自然冷媒国際会議「ATMOsphere Japan 2019」でも、同社はCO2冷媒だけでなく炭化水素にも力を入れていくと公言していたが、その取り組みの具体的な進歩が今回の取材で明らかにすることができた。「我々はメーカーという立場上、新しいことにチャレンジしなければならないという使命を持っています。それが、今回のイソブタンやプロパンの製品開発、および設備投資にあるのです。環境が整った今こそ、チャレンジに踏み切るべきタイミングにあります」と、小幡氏は語る。同社のCO2機器のように、炭化水素機器に関しても、東南アジア・日本市場だけにとどまらず、世界へと進出していくのだろう。パナソニックの世界を股に掛けるチャンスは、まさに今巡っている最中なのだ。
『アクセレレート・ジャパン』26号より
参考記事
「ATMOsohere Japan 2019」でのパナソニックの発表について