2022年6月27日、ATMOsphere主催の国際会議「ATMOsphere(ATMO) APAC Summit 2022」の一日目となるイベントが、東京コンファレンスセンター・品川にて開催された。二日間の日程で開催される本イベントにおいて、一日目は日本市場に焦点を当てた各種セッションが展開された。
日本では約2年ぶりとなる対面式イベントの「業界リーダーセッション」に登壇したのは、日本を代表する3社の代表者達だ。そのうちの一人であり、CO2冷凍機開発を牽引する日本熱源システム株式会社の代表取締役社長 原田 克彦氏は、CO2の「未来」に期待が膨らむ、数々の実績やこれからの展開を発表した。
欧米市場の変化を目の当たりに
原田氏は海外への視察を積極的に行っており、2022年6月7日から8日にかけて開催された、ATMOsphere主催の国際会議「ATMO America Summit 2022」にも参加している。セッション冒頭では、そこで得た知見を参加者にも共有してくれた。
前回2019年6月に開催された先の会議では、自然冷媒に関する発表は、大型のアンモニアシステムが数件あった程度だった。それが今回の会議において、約80%の発表がCO2に関するものであり、原田氏は北米市場の変容ぶりに脅かされたという。
しかし、それ以上に関心を寄せたのは、PFAS(ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物)規制が、声高に叫ばれていたことだ。HFO(R-1234yf)が生み出すTFA(トリフルオロ酢酸)の毒性に関する研究は近年非常に進んでいる。最悪の場合、HFOが翌2023年にでも欧州で規制の対象になる可能性があるということが、北米市場でも大きな話題となっていたのだ。
原田氏は、日本の業界・社会はTFA、PFASの問題について、認識が薄いと自覚したという。原田氏にとって、「ATMO America Summit 2022」は今後さらに欧米が、自然冷媒化を推進していくということを知る機会となった。
「スーパーグリーン」の実績
日本熱源システムのCO2単独冷凍機「スーパーグリーン」は、2016年の発売以来、環境性・省エネ性の両立ということをテーマに拡販し続けている。省エネ制という面では、年間省エネ率は20〜40%を達成。
発売から約6年。「スーパーグリーン」は国内のCO2冷凍機において、もっとも多様な製品ラインナップを誇るシリーズのひとつとなった。F級、C級用途の冷凍機の他、食品フリーザー、ブラインチラー、冷水チラーと使用可能な用途を広げ、現在は21機種を標準機として揃えている。冷却能力としては、約30kW〜約250kWをカバーし、カスタムメイドにも柔軟に対応する。
現在、日本熱源システムでは1台あたり約300kWまではCO2冷凍機にて対応し、400kW〜1800kWのレンジにおいては、同社パートナーであるGEAのアンモニアチラー「ブルーアストラム」にて対応している。
2022年2月時点において、「スーパーグリーンは120カ所に約350台が納入されるに至った。特に実績が多いのは九州地区であり、猛暑にあっても問題なく省エネが達成されている。「スーパーグリーン」の最近の導入事例は、以下の通りだ(詳細は記事最後のスライドにて記載)
- SBSフレック株式会社 阿見第二物流センター(2022年5月運転開始)
- 株式会社日本エスコン LOGITRESちばリサーチパーク(2022年5月運転開始)
産業用冷凍逓増分野において、最近は大規模な物流倉庫での導入が増えているという。「スーパーグリーン」の発売当初のラインナップは、冷却能力が34KW、68KW(約80馬力相当)の2機種だった。現在はその倍以上、200馬力程度を誇る機種が人気機種となりつつあるという。
エンドユーザーが自然冷媒冷凍機を導入しやすいよう、日本熱源システムも機器の大型化を進め、トータルの冷凍機の台数を減らしてイニシャルコスト削減に貢献できるよう努めてきた。
「CO2は空調も可能」を証明
日本熱源システムは、2021年にもさまざまな新製品を市場へ展開している。まずはC級冷凍機のアップデートだ。圧力が高く夏に効率が低下するというCO2の課題は、C級で特に顕著に見られる。同社はパラレルコンプレッサーを加えた設計を標準化し、従来機と比較して25〜30%の省エネを実現した。
また、ブラインチラー・冷水チラーの開発が、CO2の用途拡大に大きく寄与していると原田氏は語る。
これまでのソリューションは、CO2コンデンシングユニットとしてCO2自体を圧縮し、レシーバータンク内に冷媒液を溜めて、直接CO2をクーラー冷却器に送るという直接膨張方式だった。一方で、ブラインチラーや冷水チラーは機械内に蒸発器を組み込み、冷水・ブラインを供給するという構造だ。この設計で扱いやすさが大きく上昇し、いずれも空調、アイスバンクで大いに活躍している。
実際に、ブラインチラーは次のエンドユーザーの拠点で稼働中だ。
- よつ葉乳業株式会社 宗谷工場(2022年5月運転開始)
- 芳雄製氷冷蔵株式会社 穂波第一セター(2019年10月運転開始)
- 宮下製氷冷蔵株式会社(2022年2月運転開始)
製氷会社様の冷却プロセス、チルド水生成や工場用空調が典型的な使用例として挙げられます。『CO2で完全に空調も可能だ』という時代に、すでに入ってきているのです。
日本熱源システム株式会社 代表取締役社長 原田 克彦氏
また、ブラインチラーは、厳格な温度管理にも適しているという特長も持つ。芳雄製氷冷蔵が取り扱う柿のように、温度次第で凍結・熟成のリスクが高い食品には、その安定した温度供給力が非常に役立つこととなる。
次なる展開ー除霜と除湿ー
原田氏は、CO2の次なる展開において、「単に冷やすだけでは意味がない」と語る。日本熱源システムが現在進めているのは、CO2冷凍機の「排熱利用」のソリューションだ。これまで拠点外へ排出していた熱を、同社は徹底的に利用しようと計画している。
利用先の一つが「デフロスト」である。デフロストには従来、大きな電力量が求められてきた。CO2冷凍機の排熱利用によって、この工程に必要な電力をゼロにし、省エネに大きく貢献できる。実機での比較では、R22冷凍機とヒーター加熱方式による温ブラインデフロストの場合、必要な電力量は38.8kWhで、冷凍機自体の電力量は758.1kWhだった。
CO2冷凍機と排熱利用による温ブラインデフロストに変えると、ヒーター加熱分の電力はゼロとなり、また冷凍機の消費電力量も571.7kWhとなり、年間で28.3%の省エネを実現したのだ。
もうひとつの排熱利用は「除湿」だ。冷凍冷蔵倉庫にとって非常に重要なテーマである除湿を排熱利用で実践することで、顕熱分の冷却が不要となり、冷凍機自体の省エネがさらに進むこととなる。
原田氏は、総合的な省エネシステムをCO2で構築していくことが、日本熱源システムの進むべき道と話す。排熱利用が他社との差別化できる点として、技術を磨いていきたいと語った。
「産業用の難しく、そしてまた面白い点というのは、決して大量生産品だけでは対応できないということです。お客様の使用状況、使用条件に合わせて冷凍機をチューニングしていくことが、私達の腕の見せどころと思い取り組んでおります」(原田氏)
確固たるデータの提示で業界の信頼性を高める
日本熱源システムは、同社が提供する全ての冷凍機に、遠隔監視装置を設置すべく動いている。その背景にあるのが、CO2冷凍機導入による、実データの見える化だ。遠隔監視装置でリアルタイムの電力消費をチェックし、クリアなデータをエンドユーザーに届ける。これにより、業界の信頼性を高めていきたいという。同時に、機器の異常をすばやく検知し、サービス向上にもつなげていきたい考えだ。
現在、日本熱源システムは滋賀県にて工場の新棟の建設を進めており、2022年9月に完成を予定している。完成すれば生産台数が現在の100台から200台に倍増するほか、施工・メンテナンスの研修センターを設けたり、新製品開発の研究を勧めたり、遠隔監視データを見られるようにしたりと、様々な工夫を凝らす予定である。
年末あるいは来年初頭に完成式典を開き、エンドユーザーのみならず競合メーカーにも出席してほしいと原田氏は話す。自然冷媒の業界全体がやはり盛り上がっていくように、一緒に情報共有をしていきたいと原田氏は語った。
日本熱源システムは、フィリピンを拠点に持続可能なフードコールドチェーン技術の展示やトレーニングを行うCCI-Hubに対して、トレーニング用にCO2冷凍機の提供も予定している。同社はマレーシアでの展開を始めたが、CCI-Hubを通じてCO2の認知度を高めつつ、東南アジア市場にも販路拡大を目指していきたい考えだ。
参考
「ATMO APAC Summit 2022」日本熱源システム株式会社 代表取締役社長 原田 克彦氏 発表資料
