ドイツ政府の資金提供による新しい研究で、特定のHFCとHFOの分解生成物であるトリフルオロ酢酸(TFA)が、ドイツ国内の13の異なる飲料水源から採取した46の水試料に広く含まれることを明らかにした。
健康に及ぼす影響
「ドイツの飲料水の水源における超短鎖 PFAS (原題:Ultra-Short-Chain PFASs in the Sources of German Drinking Water: Prevalent, Overlooked, Difficult to Remove, and Unregulated)」と題されたこの研究は、5月4日にEnvironmental Science & Technology誌に掲載された。
ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省の資金提供により、この研究では、短鎖および超短鎖PFAS(自然界における耐久性から「永遠の化学物質」として知られている)の存在を確認した。サンプルは2020年10月27日から11月4日の間に採取されたものを使用している。
TFAは大気中でのHFO-1234yf分解により生成され、降雨で地上に運ばれ酢酸の形で存在する。またHFC-134aの約7%~20%が大気中でTFAに分解される。
短鎖および超短鎖PFASは、ドイツ環境庁(UBA)が定めた難分解性・移動性・毒性(PMT)または非常に難分解性・非常に移動性(vPvM)物質の基準案を「おおむね満たしている」とされている。
本研究では、今回の結果を受けて「超短鎖型PFASは飲料水製造における大きな課題であり、その管理には予防措置という形での規制が必要である」と結論付けている。
TFAは、本研究で最も多く発見されたPFASであり、すべてのサンプルで分析されたPFASの総濃度の90%以上を占め、最大濃度と中央値はそれぞれ12.4と0.9μg/Lであった。
ここに示されたデータからも、短鎖PFAS、特に超短鎖PFASであるTFA、TFMS(トリフルオロメタンスルホン酸)、PFPrA(パーフルオロプロパン酸)が、飲料水源のサンプルでは明らかに頻繁に見られたことがうかがえる。
この研究結果は、ドイツの地表水におけるこれまでのモニタリングプログラムの結果とも一致する。 ドイツ環境庁(UBA)の委託で、ドイツの8カ所にわたって行われた2020年の研究では、雨水中のTFAの濃度が測定された。
2018年2月から2019年1月にかけては、566mm(22.3in)の降水量から平均0.330μg/LのTFAが検出され、2019年2月から2020年1月は、694mm(27.3in)から平均0.398μg/Lが検出された。1995~1996年、1996~1997年に行われた以前の調査と比較すると、TFAの量は3~5倍に増えていることが分かる。
ドイツでは、TFAは「飲料水衛生指導値60μg/L」、「植物保護剤代謝物としての目標値(予防値)10μg/L」と定められている。
デンマークでも、水道水中のTFAの存在を調査している。2021年、デンマーク環境保護庁は247の地下水井戸のうち、219と一部の飲料水からTFAを検出したと報告した。大多数の地下水井戸では、TFAの濃度は1 µg/L未満だった。
カナダの研究者も、環境中のTFAの存在を調査。その他、現在および将来のTFA濃度に関する最近の研究については、昨年開催の会議「ATMOsphere Europe」で報告されている。
環境中のHFOとTFAの濃度上昇に対する懸念を受けて、欧州5カ国は昨年、一部のHFCとHFO冷媒を含む過・多フッ化アルキル物質(PFAS)の規制に関する共同提案を、REACH規則に基づいて2022年7月までに欧州化学品庁(ECHA)に提出する方針を明らかにした(同スケジュールは、現在2023年1月に延期されている)。
各国の研究
飲料水源で最も多く検出された超短鎖型PFASは、飲料水製造時に最も除去が困難なPFASでもある、と本研究は述べている。「このことは、これらの物質を除去するコストと、これらの化学物質が引き起こすかもしれない健康への影響の両方について疑問を提起しています。
この研究は、TFAのような超短鎖PFASの長期暴露に関するデータは、現在ほとんどないことを認めている。しかし、PFASは難分解性であるため、一度放出されると何十年も環境中に残ること、PFASによる悪影響が発生した場合、浄化は実行不可能か非常に困難であるとした。
ドイツの研究は、「今回の結果は淡水と飲料水源における超短鎖PFASの存在を証明するものであり、問題点が報告されている物質のモニタリングキャンペーン、政策立案、リスク評価の支援に利用可能である」と示唆した。
この研究では、水サンプルに検出されたTFAの出所を特定するものではない。TFAは、工業プロセスや医薬品や農産物の変換産物として、水循環に取り込まれる可能性がある。しかし、TFAは「大気中のハイドロフルオロカーボン冷媒の変質生成物でもあり、大気中の沈殿物を介して水環境に到達する可能性がある」という。
化学業界は、FガスメーカーのChemours、Honeywell、Arkema、Koura(および機器メーカーのダイキン工業株式会社)を代表とするGlobal Forum for Advanced Climate Technologies(globalFACT)が出資した2021年10月の研究で、「TFAが人間と生態系に与える影響に関する現在の知識では、2040年までの予測排出量は有害なものではない 」と結論づけた。
しかし、この研究は「TFA濃度とその空間分布の知識における主要な不確実性は、将来の予測排出量の不確実性に起因する」ことも認めている。
参考
New German Study Finds Significant Amount of HFO Degradation Product TFA in Drinking Water
※本記事は英語で作成後、日本語に翻訳されております。
ATMOsphereネットワーク
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