2022年6月27日、ATMOsphere主催の国際会議「ATMOsphere(ATMO) APAC Summit 2022」の一日目となるイベントが、東京コンファレンスセンター・品川にて開催された。二日間の日程で開催される本イベントにおいて、一日目は日本市場に焦点を当てた各種セッションが展開された。
今回の会議では、空調分野で広まる自然冷媒技術の最新動向を発表する場として、「空調・プロセス冷却分野における自然冷媒技術」セッションを用意。トップバッターとして、早稲田大学 リサーチイノベーションセンター 客員上級研究員 松田 憲兒氏に登壇してもらった。
松田氏は2011年〜2018年にかけて、一般社団法人日本冷凍空調工業会(以下、日冷工)に所属しており2014年のATMOsphere会議にて、工業会を代表して登壇している。今回はその振り返りや現代の技術動向を紹介してもらいつつ、学術的な立場から今後の日本が取るべき道を話してもらった。
2014年からの振り返り
2014年の講演時、松田氏は日本企業の冷媒関連市場のシェアは約30%と、世界的にも大きな影響力があると発表。トップランナー制度のもとで、日本企業は高性能・高効率の冷凍空調機器を市場へ投入していた。機器の省エネ性能と低GWPのさらなる推進が必要として、日冷工は「S+3E」の基本コンセプトによる冷媒選定を提唱した。
・S=Safety
・3E=Environment Performance、Energy Efficient、Economic Feasibility
日本はCFC→HCFC→HFCの冷媒転換をいちはやく進めていった。その過程で、2000年頃からCO2、アンモニア、R290関連の特許が多く出願され始め、自然冷媒に関する研究開発も積極的に進められはじめたことがうかがえる。とはいえ、2014年時点での市場での自然冷媒関連製品は少なく、今後冷媒の多様化・複雑化が進むと松田氏予想。各自然冷媒の特性を理解し、適材適所で選定する必要があるとした。
2014年は、冷媒への認識が世界的にも低い頃だった。2013年には「規制改革会議」が開催され、冷媒関連の規制緩和の要望が多く聞かれた。緩和を求められた対象は、微燃性冷媒とCO2だ。当時のCO2はR290と同じ規制内容だったため、大型機器への運用は難しかったという。
本格的に動き出したのは、2015年のCOP21(パリ協定)、2016のMOP28(キガリ改正)である。国際的な枠組みに応じて、日本国内での規制緩和の動きも加速していった。その過程で成立したのが、オゾン層保護法やフロン排出抑制法だ。
空調分野への自然冷媒の進出
早稲田大学は、温度帯・GWPによる冷媒用途マップを作成、公開している。
冷媒用途マップ(画像をクリックするとサイトを閲覧できます)

表を見ると分かるが、製品それぞれに応じて多種多様な冷媒が活躍している。どの冷媒の性能も一長一短で、「CO2だから全項目で優れている」「R290だから全項目で優れている」というわけではない。製品別、エンドユーザーの使用環境によって、適切な冷媒は決定されるからだ。製品用途という観点においては、特筆して優れた冷媒はないと松田氏は話す。
一方で、2022年7月時点で各種空調機器の冷媒転換が進められてきた。特に転換が進んでいるのは、ターボ冷凍機、カーエアコン、自動販売機、家庭用冷蔵庫などだ。こちらには、R134a。R404aからCO2、炭化水素のほかHFOなどに転換されている。特にEVの場合、熱源がない場合R1234yfでは効率が悪く走行距離に悪影響が生じることが懸念されている。そのため、現在はCO2や炭化水素のヒートポンプへの活用が検討され、開発やテストが進められているところだ。
2050年カーボンニュートラルに向けて
自然冷媒機器の研究開発が進められる過程で、大手メーカーからは様々な技術が開発されてきた。
CO2
- 2段圧縮システム…三菱重工サーマルシステムズのスクロータリー圧縮機、パナソニックのロータリー2段圧縮機
- 二酸化炭素を熱輸送媒体として活用…前川製作所のアンモニア/CO2ブライン冷凍システム、三菱重工冷熱のアンモニア/CO2二次冷媒自然循環システム
- インジェクションの利用…三菱重工サーマルシステムズのCO2冷凍冷蔵コンデンシングユニット
- 圧縮機の耐久性・信頼性確保…三菱重工サーマルシステムズの複数圧縮機 機間の均油制御
- 高外気温対策…日本熱源システムのガスクーラーコイルへの水噴霧
空気冷媒
・膨張機で発生する断熱膨張仕事を、モーターを介し圧縮機の補助動力として回収…前川製作所の空気冷凍システム(膨張機一体型ターボ圧縮機)、三菱重工冷熱の窒素(N2)大容量型ブライン冷凍機(磁器軸受採用)
水冷媒
- 蒸発器の圧力を約100分の1気圧に下げて冷媒の水を6°Cで蒸発しパイプの中の水を7°Cまで冷却。この冷水で作られた冷風を、冷房として活用。蒸発した冷媒は圧縮機で20分の1気圧まで昇圧され、凝縮器内で30°Cの冷却水で凝縮されて液体に戻る…川崎重工の水冷媒ターボ冷凍機
このように、各種メーカーから楽しみな技術が次々と生まれている。2014年当時と比較して、自然冷媒技術が大きく普及したと、松田氏は話す。そして、同氏は今後の温室効果ガス排出削減について、冷媒の製造方法にも意識を巡らすべきだと指摘。特にアンモニアの場合、主流となるハーバー・ボッシュ法は多くのエネルギーを必要とする。
これについては、2019年4月に東京大学の西林 仁昭教授率いるチームが、原料に化石燃料由来の水素を使わず、水と窒素からアンモニアを合成する方法を開発したと発表している。NEDO研究でも、同様の研究開発が進められているところだ。
この他、2050年カーボンニュートラルに向けて、松田氏は次のような取り組みも重要だと話した。
①冷媒漏えいを起こさない起こさせない仕組みづくり
②サーキュラーエコノミーによる冷媒だけでなく金属やプラスチック素材の有効活用
③①②によるコスト・経費の増加だけでなく、可燃性冷媒や毒性冷媒及び高圧作動の冷媒
今後、カーボン・ニュートラルに向けてメーカー、工業会、エンドユーザーと一緒になって考える必要性がますます出てくるでしょう。日本の長所は、未来をトータルで見る力を持っている点にあります。みなさんと一緒に、この分野に貢献できればと思っております。
早稲田大学 リサーチイノベーションセンター 客員上級研究員 松田 憲兒氏
参考
「ATMO APAC Summit 2022」
早稲田大学 リサーチイノベーションセンター 客員上級研究員 松田 憲兒氏
