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プロパン内蔵型ショーケースに大規模更新 メトロジャパンが踏み出した大きな一歩

メトロAG はグローバル全体で、2011年の売り場面積あたりのCO2排出量を基準に、2030年までに50%のCO2排出量削減を目指す「F-GAS-EXIT PROGRAM 2030」を掲げる。同プログラムの一員でもあるメトロ キャッシュ アンド キャリージャパン株式会社は、過去に類を見ない既存店での大規模なプロパン内蔵型ショーケースの入れ替え工事を、2019年11月に完了した。内蔵型ショーケースを採用することで、店舗オペレーションはいかに変化したのか。その足取りと成果、今後立ちふさがるであろう課題について尋ねた。

 

文: 佐藤 智朗、岡部 玲奈

65台のショーケースを5日間で入れ替え

ドイツに本社をおき、世界25カ国に670店舗以上を構える卸売企業グループ、メトロAG。その日本法人であるメトロ キャッシュアンド キャリー ジャパン株式会社(以下メトロジャパン)は、2002年に日本での操業をスタートし、2020年1月現在で10店舗を営業している。2号店の川口安行店は、2003年2月に開店し、食のプロ専用の卸売りとして、地元の食に貢献してきた。

 

そんな同店に昨年11月、約65台の平型ショーケースが、R404aの別置型からプロパン内蔵型のものへと切り替えられたのである。今回の切り替え工事は環境省の補助事業「脱フロン・低炭素社会の早期実現のための省エネ型自然冷媒機器導入加速化事業」で採択され、導入の際に援助を受けたこともあり、本誌が店舗を訪れた時は、まさに環境省による視察が行われている真っ最中であった。
 

同社マネジメント本部 アセットマネジメント部 建設・設備管理マネージャーの船守 健司氏は、新たなオペレーションに生まれ変わった売り場を案内してくれた。今回設置されたショーケースには、野菜などの冷凍食品が陳列されている。合計5 区画のエリアに別れており、切り替え工事は1日に1区画ずつ実施した。「メトロジャパンの各店は、早朝6時から夕方7時まで、1年365日営業しています。工事期間中も、売り場をクローズせずに実施する方法を検討しました」。

 

工事は昨年11月25日から開始。閉店時間と同時に1区画の商品をショーケースから撤去し、その後ショーケースの入れ替え工事を順次開始。内蔵型ショーケースのため配管工事の必要もなく、22時までには1区画全てのプロパンショーケース設置が完了した。

マネジメント本部 アセットマネジメント部 建設・設備管理マネージャー 船守 健司氏

設置後はショーケース内の冷やし込みを行うと、翌朝には通常通りの営業が可能となった。限られた時間内に工事と商品陳列を終わらせるためと、撤去した商品をスペース確保が難しかったためだ。今回、ショーケースにはオーストリアのショーケースメーカーであるAHT社の「ATHEN」を採用。デザインの変更やLEDライトにより、商品の視認性も向上した。「CO2冷媒のショーケースへの切り替えは、まだ投資コストが高いというデメリットがあります。環境面、価格面と省エネ効果を検討し、プロパン内蔵型
ショーケースを選択しました」。

 

同機への切り替え計画自体は、1年前から進行していた。しかし当時は、スケジュールの都合で補助金の申請が間に合わなかったという。1年越しに、ようやく念願のショーケース更新が実現した形だ。11月30日に完了した工事から、新ショーケースは問題なく稼働し、-25℃でケース内の商品を冷やしている。川口安行店以外にも、千葉店は1月中旬、多摩境店は1月下旬とそれぞれ工事が完了し、計200台ものプロパンショーケースを導入した。

メンテナンスに大きなメリット

今回ショーケースを更新した3店舗はいずれも、2002年~2006年の間で開店しており、ショーケースの老朽化が心配されていた。川口安行店では既存のショーケースと比べ、年間の電力消費量を約60%近く削減できるとメトロジャパンは試算する。冷房設備の電気料金がかなりの割合を占める同社のオペレーションにとって、この数字は非常に大きな影響力を持つ。

 

「金額に直すと、1店舗当たり年間約300万円近くものコストを節約することが可能です。川口安行店は、既存のショーケースも扉付きでしたので、オープンショーケースと比較すれば、さらに大きな経費削減が期待できるでしょう」と、船守氏は考える。新店のショーケース導入に比べ、既存店でのショーケース入れ替えはイニシャルコストが高額になる懸念はあった。しかし、補助金の活用によるコスト低減、そしてランニングコストへの期待値からも、投資回収は十分に可能だという。
 

内蔵型ショーケースは、メンテナンスにおけるメリットも大きい。かつては1区画のショーケースを1系統として配管が連結していたため、1カ所でトラブルが発生すると1 系統全てが使用できなくなるという問題があった。一方、内蔵型ショーケースの場合は1台が故障した場合、商品を他のケースに移して営業を継続できる。あとは故障したショーケースを入れ替えるだけで、問題は解決だ。事故発生時によるショーケース、そして商品の被害を最小化できるのである。

店内の課題の是正に向けて

過去に例を見ないほどの大規模な炭化水素冷媒機器の導入は、メトロジャパンにとって大きな一歩となった。しかし、今後店内で自然冷媒機器を拡充させていくにあたり、課題も多い。船守氏は将来的に、店内全体が冷えている環境を是正したいと考えている。その展望に立ちはだかるのが、最大の課題である「ショーケースのラインナップ」だ。今回切り替えを行った冷凍平型ショーケースの他に、チルドショーケースやオープン型のショーケースなどはない。次の一手をどうすべきか、メトロジャパンは見定めようとしている段階だ。
 

大規模な内蔵型ショーケースの採用は、メトロジャパンのよう店舗営業をしながらショーケースの切り替えを実現したい小売業者にとって、非常に前向きな事例となったことだろう。メトロジャパンにもまだまだ課題は残るが、さらなる自然冷媒への一歩が待たれてやまないとともに、メーカー各社の働きがけにも注目していきたい。