2022年6月27日、ATMOsphere主催の国際会議「ATMOsphere(ATMO) APAC Summit 2022」の一日目となるイベントが、東京コンファレンスセンター・品川にて開催された。二日間の日程で開催される本イベントにおいて、一日目は日本市場に焦点を当てた各種セッションが展開された。
政策動向セッションに登壇した経済産業省製造産業局 化学物質管理課 オゾン層保護等推進室 課長補佐 兒玉 歩氏からは、経産省が進めるフロン代替の取り組みや超低GWP冷媒・自然冷媒の開発プロジェクトについて紹介。今回注目されたのは、次世代冷媒に対する取り組みだった。
2法の一体的運用によるHFC削減へ
HFC排出量はHCFCからの代替に伴い、継続的に増加傾向にある。2020年の排出量は、2013年比で61.0%増加した。特に増加が顕著なのは、エアコン等の冷媒として使用されているHFCの排出量だ。
日本は2030年までに、2013年度比でHFC排出量を55%削減しなければいけない。この目標値に対して、喫緊の対策として経済産業省が促進しているのが、代替フロンから温室効果の小さいグリーン冷媒への転換や、利用機器からの排出抑制である。
現在、国内におけるフロン対策として存在するのが、オゾン層保護法とフロン排出抑制法の2法だ。
モントリオール議定書の担保法としてのオゾン層保護法は、モントリオール議定書に基づいて、製造輸入量の規制を行う。議定書の改正に伴って、これまでに同法も5回改正され、2016年のキガリ改正を踏まえ、2019年からHFC規制が開始された。
フロン排出抑制法においては、使用・回収・破壊のライフサイクル全体にわたる管理を行えるスキームを構築。
キガリ改正によるHFCの段階的削減スケジュール(通称「キガリの階段」)を達成するには、毎年HFC排出量を10.4%削減することが必要だ。その達成のため、経済産業省は毎年製造・輸入数量の割り当てを実施。2022年9月に製造輸入数量の申請ができるよう、現在準備を進めていると兒玉氏は説明する。
指定製品制度
経済産業省は、フロン排出抑制法に基づいた指定製品制度を進めている。指定製品制度は、環境影響度を低減させた製品の開発・商品化を進めて、市場全体の低GWP、ノンフロン化が促進される制度構成としているのが特徴だ。
製品区分ごとに出荷台数に基づく加重平均GWP値と目標年度を設定し、その目標達成に向けて各業界において協力を仰いでいる。具体的な製品区分だが、既に指定されている14区分に加え、2022年4月の産業構造審議会において、新たに以下の項目が追加された。
- 中央方式エアコンディショナーのうち容積圧縮式冷凍機を用いるもの(空調用チリングユニット)
- ガスエンジンヒートポンプエアコンディショナー(新設及び冷媒配管一式の更新を伴うものに限り、冷暖同時運転型や寒冷地用等を除く)
- 設備用エアコンディショナー(新設及び冷媒配管一式の更新を伴うものに限り、電算機用、中温用、一体型などの特定用途対応機器などを除く)
- トラック(貨物の輸送の用に供するもの)及びバス(乗用定員が11人以上のもの)に搭載されるものに限る
- 業務用一体型冷凍冷蔵機器(内蔵型小型冷凍冷蔵機器)
- 業務用冷凍冷蔵庫(蒸発器における冷媒の蒸発温度の下限値が-45°C未満のものは除く)
- ショーケース(圧縮機の定格出力750W以下のものに限る)
指定製品の製品区分を決める要件は、国内において相当程度のフロン類が使用されている製品であること、代替候補となる技術開発が進んでいるということが挙げられる。代替候補となる技術については、安全性で、経済性、性能、技術開発や商品化の見通しなどで判断される。
低GWPの冷媒を使われることが望ましいものの、冷媒の安全性に関する評価が進まないと指定製品化できない区分も存在する。その場合、指定製品化の対象としない判断が下される。
とはいえ、キガリの目標を達成するためには、なるべく低GWP冷媒使用の製品が早急に市場に普及することも重要です。
残された課題をクリアする対策を進めていくとともに、この製品区分については製品セグメントを細分化して、どのセグメントであれば可能か、または導入することが困難かを精査して、指定製品化を促進していく方針としております。
経済産業省製造産業局 化学物質管理課 オゾン層保護等推進室 課長補佐 兒玉 歩氏
NEDOプロジェクトでの支援
業務用・家庭用機器の低GWP化促進として、取り組んでいるのがNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究開発プロジェクトだ。現行のプロジェクトについては、2018年度から今年度まで実施。5年間の研究開発プロジェクトを通じまして、次世代冷媒の基本特性評価、安全性リスク評価の開発、評価手法の開発、次世代冷媒の適応技術の開発を進めている。
同プロジェクトは委託と補助の2部構成になっている。委託では大学や研究機関の協力を得て、次世代冷媒の組成事の基本特性、燃焼性・毒性に関する基礎データ収集・評価したり、安全性やリスク評価を行ったりする。補助は次世代冷媒機器の開発を進めるために、試作機レベルでの実証事業などを行っている。
本事業で得られたデータは、今後業界の安全基準、国際規格に提案できるような基本データとなる。現在補助事業に参加しているのは、ダイキン工業株式会社、三菱電機株式会社、東芝キヤリア株式会社、パナソニック株式会社の4社である。
研究内容だが、ダイキンはGWP10以下の混合冷媒の組成評価、物性評価とともに、冷媒を適用するための冷凍気油、圧縮機、熱交換器などの評価を行っている。三菱電機は、CO2および超低GWP冷媒において、高効率かつ高経済性の大型クーリングユニットの開発を進めている。東芝キヤリアは次世代超低GWPの冷媒を使用した、冷凍冷蔵機器のコンデンシンユニット開発を進めている。パナソニックは、CO2・超低GWP冷媒を用いた冷凍機開発を進めている。
現行プロジェクトにおいては、有識者の専門家によって構成される評価委員会において、進捗状況については良好と評価されているという。今年度で終了することもあり、これまでの成果を集大成として成果を出すとともに、来年度の後継プロジェクトについて準備を進めているという。
キガリ改正の厳しい目標、及び2050年カーボンニュートラル(CN)目標を達成するためには、次世代冷媒の開発及びその適用機器の開発、市場化が早急に進められることが求められていると兒玉氏は話す。
2036年までに、HFCを85%削減するためには、2030年までに出荷数量の加重平均GWPが450以下にならないといけない。非常に厳しい目標ではありつつ、こういった数字を財政当局に示しつつ、次期プロジェクトもぜひ進めていきたいと考えている。
次世代冷媒の早急な市場化の一方で、次世代冷媒の代替が困難な用途については、漏えい対策ですとか、漏えい防止技術の開発も必要だろう。経済産業省としては、引き続き環境省や業界関係者と連携し、目標の達成を進めていきたいとした。
経済産業省の取り組みにおいて、業界関係者が注視するのが「グリーン冷媒」に含まれる次世代冷媒の行方だ。現在の次世代冷媒の筆頭と言えるHFO(1234-yf)は、本会議でも数々の発表で環境への影響が不安視される声が飛び交った。欧州でも、環境・人体への影響に対する研究が報告されている。
今年度で区切りを迎えるNEDOプロジェクトが、次年度以降でどのような形で進行するのか。これまでの次世代冷媒に関する報告に加え、今後の新たな国内外での研究発表で、その姿がどう変わるのかに注目だ。
参考
「ATMO APAC Summit 2022」
経済産業省製造産業局 化学物質管理課 オゾン層保護等推進室 課長補佐 兒玉 歩氏
