株式会社前川製作所が誇る、省エネ型アンモニア/CO2冷凍機NewTonは、2008年より生産がスタート。食の生産・流通を支える重要拠点への納入実績を重ね、国内外の累計出荷台数は圧縮機ベースで1800台を超える。国内のみならず、海外からも強い関心を集める前川のものづくり。同社の中心的な生産拠点であり、革新的な技術を世界へと生み出し続ける茨城県の守谷工場を訪れ、彼らの過去・現在・未来を取材した。
文: 佐藤 智朗、岡部 玲奈
「アンモニアはマエカワ」となるまで
1924年に創業した前川製作所。産業用冷凍機では国内シェアトップを誇り、冷凍運搬船に使われる冷却設備では、世界トップシェアを誇る。同社のものづくりの中心的存在とも呼べる守谷工場は、1970年に操業を開始した。現在では220,000㎡の敷地面積の中に、圧縮機工場、機械加工工場、工作機械再生工場、圧力容器・熱交換器・ユニット工場、制御盤工場、食品加工機械工場など、多彩な機種製造に対応した施設が並ぶ。
「NewTon」は2008年より生産を開始したが、2013年より守谷工場に専用ラインを作り、現在は施設中央部の「NewTon」工場で生産・出荷体制を整えている。生産拠点を一カ所に集約することで、従業員の意識を高めつつ、高い製品品質を保っている。生産開始から10年が経った2018年12月までで、累計出荷台数は1,840台に到達。日本では1970年代、毒性を持つアンモニアに代わってフロンが登場し、かつ国の意向もあって、国内産業用冷凍機メーカの多くがアンモニアからフロンへと切り替えた経緯を持つ。

しかし当時、前川製作所の冷凍機は8割近くが海外への輸出であり、「操業当初から、国内のみでなく欧米へアンモニア冷凍機器の供給が中心でした。そのため、フロンのみに移行することなく、海外を含めたエンドユーザーの声に応え続けた結果、『アンモニアはマエカワ』と国内外でブランドを築き上げることができたと思います」と、NewTonの開発当初から関わってきた、同社顧問の浅野 英世氏は話す。
その後、2007年にアンモニアを使用した半密閉型の単機二段スクリュー冷凍機モデルを開発。同社初の試みとして、二次冷媒にCO2冷媒を使用する間接冷媒方式を採用し、アンモニア/CO2冷凍機ユニット「NewTon」が誕生した。
増える大型機の需要
そんな前川製作所の「NewTon」が出荷台数を大きく伸ばしたきっかけは、2016年にあったと語るのは、守谷工場の副工場長 兼 部門リーダーの八下田 新一氏だ。「2016年は2014年から始まった環境省の自然冷媒機器導入補助制度(先進技術を利用した省エネ型自然冷媒機器普及促進事業)が満了となる年で、駆け込み需要的にエンドユーザー様からご注文をいただきました。現在も類似の補助金制度は継続されていますが、そのタイミングから受注ペースは変わっておりません」
これまでの納品実績のうち、約1/3が補助金を利用したものだという。「2016年に補助金制度が終わるかもしれないというニュースをきっかけに、日本国内でもなるべく早くフロンから転換しようという認識が広まったと考えています」と、八下田氏はその経緯を説明した。
「NewTon」の納入先は、冷蔵倉庫が60% と最も多く、フリーザーが30%、残り10%がそのほかの市場だ。近年では大型機の需要が大きく伸びていると、浅野氏は言う。「国内ではサプライチェーンの効率化を背景に、施設の統廃合が進んでいます。結果として工場規模が大きくなり、冷凍機も大型ユニットを優先して設置することで、トータルコストを抑えるというトレンドが働いているようです」。「NewTon」は主に、庫腹量が3,000t以上を要する冷蔵倉庫に対応している。しかし、現在国内で工場を新設する場合は、20,000t以上の規模がないと採算が取れないのが一般的な考えだ。
首都圏・関西圏から地方へ進出する場合、倉庫規模が30,000t以上になることも珍しくない。設備更新で「NewTon」を納入する際も、10,000t~20,000tの規模が多いと言う。国内の大型機需要は、今後もしばらく高いままと浅野氏は予想する。
エンドユーザーに寄り添ったサービスを
「NewTon」の出荷先うち、海外市場への納品は台湾、タイ、インドネシアといった東アジア、東南アジ
アが中心だ。「日本市場以上に、海外では冷凍機の大型化が進んでいます。東南アジア地域のコールドチェーン市場には、今後ますます期待したいところです」と、浅野氏は語る。守谷工場は積極的に業界関係者の見学を行なっている。過去2年だけでも約1,300の団体がこの工場を訪れ、圧縮機をはじめとした各種製造ラインを見学する。その内の10%が海外からの事業者だ。

ロシア、韓国、中国、台湾、インドネシアなどが多く、計40カ国の企業が来訪している。実際に機器が納入され稼働している冷蔵倉庫、物流センターの見学と合わせて、守谷工場にも足を運ぶ場合も多い。前川製作所の品質、技術開発に強い関心を抱いており、中には訪問当日に具体的な商談が行われることも多いという。
「通常、生産工場では、外部に主要部品製作を依頼し、組み立て・配管といった最終工程のみを工場で行うケースも多いです。しかし、守谷工場は部品の製造、組み立て、配管、気密試験と試運転まで、全てここで行なっています。それが、来場するお客様にとっての安心に繋がっているのでしょう」と、浅野氏は述べた。
前川製作所は多彩な拠点を持つ。国内外で4カ所にコンプレッサー工場と9カ所のアセンブリ工場。サービス拠点は国内58カ所、海外48カ国・106事業所を構える。
「弊社は単なるコンプレッサーメーカーではなく、冷熱プラントのエンジニアメーカーでもあり、メンテナンスなどサービス提供事業者でもあります。『販売して終わり』という関係性ではなく、エンドユーザーに寄り添って、製造・施工・サービスまで、一貫して対応できる体制を整えています」
技術進化とローコスト化
前川製作所では、NewTon シリーズを4年ごとにリニューアルしていく体制を整えている。モノつくり事業本部「NewTon」プロダクツ部門の速水 史朗氏は、「2016 年、F級冷蔵倉庫用の『NewTonR』シリーズのR3000をバージョンアップし、コンプレッサー、コンデンサ、セパレータ、蒸発器の配置を、ある程度プラットフォーム化させることに成功しました」と語る。
「R3000プラットフォーム」とも呼べるこのスタイルを、同シリーズの大型機に該当するR8000タイプや、C級冷蔵倉庫に対応した「NewTon C」シリーズに今後適用していく。

実際にR8000タイプでは、従来よりも大幅なサイズダウンを実現したと速水氏は言う。「今回のリニューアルで、最も特筆すべきは輸送面の効率化です。従来では大型トレーラーでの輸送が必須だったのですが、リニューアルによって15tトラックでの輸送が可能となります。
これにより、運搬コストおよび設置コストを大幅に削減することが可能です」。「NewTon」の開発は、これまで「機能性向上」が主な課題だった。しかし今後、同社はよりローコストで提供するというテーマにも注力していくという。R8000タイプのバージョンアップに関しては、2019年末にリリース情報を発表し、2020年秋の納品を目標に進行する。
前川製作所は、日々の技術開発とサービス向上にも力を入れる。2019年8月には、「NewTon」の取り扱いについて、販売後のサービスやメンテナンス、オーバーホールを想定した、作業主任者の会社独自の資格認定制度を発足。社内間のコミュニケーションにも力を入れ、技術者以外からも改良改善の糸口を模索している。その成果が見られるバージョンアップのリリース情報が、これから楽しみだ。
『アクセレレート・ジャパン』24号より