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ローソン初の 「完全ノンフロン店」の誕生

国内の小売業界において、自然冷媒・ノンフロンの取り組みのリーディングカンパニーとして知られる株式会社ローソン。同社は2019年9月、約3,600店舗まで広げてきたCO2機器導入の歴史において初となる、炭化水素(HC)機器を採用することで、要冷機器を完全ノンフロン化した店舗を藤沢市内にオープンさせた。

 

文: 岡部 玲奈、佐藤 智朗

初の「完全ノンフロン店」が慶應義塾大学内に誕生

2019年9月23日、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス内(所在地:神奈川県藤沢市)にて、ローソン、もとい小売業者にとって初となる「完全ノンフロン店」が誕生した。同社は「ローソン慶應義塾大学SFC店」で、使用されている要冷機器を全てノンフロン化することに成功したのだ。

 

採用機器の内訳だが、別置型機器にパナソニック株式会社アプライアンス社製のCO2冷凍冷蔵機と扉付CO2冷媒要冷ケースを、そして内蔵型機器に同社初の試みとして、大手業務用厨房機器メーカーのホシザキ株式会社が開発した、プロパン(R290)採用の業務用冷凍冷蔵庫(6 枚扉)と業務用冷凍庫(2枚扉)、そしてイソブタン(R600a)採用の製氷機およびコールドテーブルを導入した。

 

同店舗は非24時間営業店舗であるため、配送荷受け用として使用する温度管理機能付保冷庫(1枚扉、2台)についてもプロパン(R290)採用の機器を導入。なお、店内に採用したショーケースの内訳は次の通りである。

■冷蔵ケース
扉付き:3台
米飯ケース:2台
冷温ケース:1台
ウォークイン5枚扉ケース:1台
内臓型ドリンク剤ケース:1台
内臓型デザートケース:2台

■冷蔵ケース
内臓型リーチイン1枚扉ケース:1台
内臓型平台ケース:2台
プロパン業務用冷蔵冷凍庫
「HRF-180A4FT3-LW1-HC」

ローソンは環境負荷低減のための活動として、2020年度までに1店舗あたりの電気消費量を、2010年度対比で20%削減するという省エネルギーの中期目標を掲げている。ノンフロン機器は環境負荷が低いだけではなく省エ性能が高いことから、ローソンは2010年からノンフロンCO2冷凍冷蔵システムの導入を開始し、2020年2月末時点で、導入店舗数は3,700店を超える見込みである。

 

自然冷媒機器を導入した店舗数においては国内最大規模を誇る同社だが、導入してきた自然冷媒機器は全て、売場で使用するCO2別置型ショーケースであった。一方、店舗内の従業員専用室には、商品保管用の業務用冷凍冷蔵庫やアイスコーヒー用の製氷機などが使用されているが、これまではフロン機器が使用されていた。ホシザキが自然冷媒である炭化水素冷媒を採用した内蔵型機器の開発に成功したため、今回の新店は自然冷媒業務用要冷機器を初めて導入した画期的な事例となったという。

 

プロパン業務用冷凍庫
「HF-63AT-HC」

同社開発本部 建設部 の松谷 裕行氏は、導入の経緯を次のように語る。「日本国内のコンビニエンスストア(小売業)におけるノンフロン化推進にあたり、別置型はCO2の道筋が見えてきました。小型内蔵要冷機器についても、省エネ性含めた環境負荷の低い機器の開発・選定・導入を検討していたことから、今回の決断へと至ったのです」

 

本事例では、CO2別置型ショーケースにも注目したい点が多い。通常オープンタイプの要冷ケースにはペアガラス扉を取り付けることで、外気侵入・冷気漏れを改善しつつ大幅な省エネを実現した。他にも、スーパーバイザーが使用する社有車をEV(電気自動車)とし、店舗消費電力制御に活用。IoT化された店舗設備の導入により、電力ピーク時の節電制御・需給調整を実現するなど、多角的な低炭素社会実現への貢献を企図した仕組みが施されている。

 

業務用要冷機器のノンフロン化に踏み切ったのは、地球温暖化対策推進と省エネ性、両面でのメリットを考慮してのことだった。環境配慮モデル店舗として、要冷機器完全ノンフロン化を実現(実証)する。その第一段階として、慶應義塾大学が選ばれたのだという。取り組みはノンフロンラベルでの告知や大学教授からのレクチャー、学内サイトでの発信等を活用し、広報活動が進められている。松谷氏はこの検証を踏まえた上で、ノンフロン化の水平展開を進める考えを話してくれた。

炭化水素市場も牽引、外食産業にも波紋か

先に述べたように、ローソンのノンフロン戦略は、長らくCO2冷媒が支えてきた。一方で、同じ自然冷媒である炭化水素冷媒の可能性にいち早く気づき、省エネ性が高く小型内蔵ケースに適しているとし、早期開発への取組みを推進すると、2月にshecco 主催で開催された自然冷媒国際会議「ATMOsphere Japan 2019」で提言。

イソブタン製氷機
「IM-25M-1-HC」

 

炭化水素は可燃性冷媒であることから、安全対策に対する課題解決が必須となるため、国内メーカーは商品化に消極的であるとし、米国ワールプール社のコンプレッサ事業であるEmbraco社(2019年7月に日本電産株式会社が買収)と、炭化水素を採用した冷却ユニット ・内蔵型ケースの実証実験を開始するなど、CO2市場の発展だけではなく、炭化水素市場にも貢献する姿勢であった。

 

今回国内メーカーであるホシザキと共に、業務用炭化水素冷凍冷蔵機器の実際の店舗への導入まで至ったことは、まさに同社の提言を裏付けるような取り組みである。炭化水素冷媒の充填量は今まで150gまでに制限されていたが、今年5月に国際規格を定める国際電気標準会議(IEC)にて500gまで制限が緩和され、世界的にも次世代冷媒として期待されており、日本でも一般社団法人日本冷凍空調工業会を筆頭にリスクアセスメントが継続されている。

今回の導入を経て、同社は炭化水素の小型機器は省エネ性に加え配管面でのコスト、改装が容易という運用面でのメリットもあることから、積極的に導入を進めたいとの考えを示す。そのため今後は、国内で進むリスクアセスメントの報告に合わせ、メーカーの開発動向に合わせて動きたいと、松谷氏は述べた。「具体的な目標数値はありませんが、現状標準店舗に導入しているノンフロン機器はCO2冷媒仕様のオープンケース、ウォークイン、冷凍リーチインのみ。省エネ及び地球温暖化防止に向けた取り組みの1 つであるノンフロン機器導入率向上のため、今後も各機器に適したノンフロン冷媒によるバリエーションの拡充を推進していきたいと考えております」
 

今回の新技術投入は、単にローソンの「完全ノンフロン店」を実現させただけではない。業務用要冷機器のノンフロン化に成功したことで、その恩恵を受けるのはコンビニだけではなく、業務用要冷機器を使用するスーパーマーケットを含むすべての小売業界、そして外食産業である。一般社団法人日本フードサービス協会が2019年7月に発表した「平成30年外食産業市場規模推計」によると、2018年の外食産業市場規模は、25兆7,692億円と推計され、前年比0.3%増となった。

 

イソブタン冷凍コールドテーブル「FT-120SNG-HC」

飲食店、宿泊施設、社員食堂、病院給食、喫茶店、居酒屋・ビヤホールなどが含まれる外食産業では、各店舗にて業務用要冷機器が使用されているため、もしこの自然冷媒機器が外食産業でも使用されるようになれば、国内のフロン排出量の削減に大きく貢献することとなる。外食産業でのフロン排出量は小売業界ほど多くはないが、省エネ性の高い炭化水素機器はランニングコスト削減に繋がり、かつイニシャルコストも現行フロン機とさほど変わ
らない。

 

国内では業務用炭化水素製品を供給する企業は少なかったが、今回大手厨房機器メーカーであるホシザキという巨頭が動いたことで、今後の市場の変化をイメージさせる。炭化水素製品には海外製品もあるが、故障時のメンテナンスやリードタイムを考えると、やはり今回のような「国産品」が増えることが、市場活性化に大きく寄与するだろう。そのきっかけを作り出したローソン、そして国全体の脱フロン化への歩みが止まらぬよう、産学官が連携して市場を整える必要があるのではないだろうか。

『アクセレレート・ジャパン』26号より

参考記事:

日本冷凍空調工業会のリスクアセスメントに関する取材記事