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国内食品物流を担う国分グループの挑戦

2019年2月12日に、shecco Japan 主催で東京コンファレンスセンター・品川にて開催された自然冷媒国際会議「ATMOsphere Japan 2019」。同会議の産業用エンドユーザーパネルにて、国分グループ本社株式会社の物流統括部 戦略推進担当部長を務める本橋 明夫氏は、同社が新設する総合物流センターに、同社初となる自然冷媒を導入した経緯を発表。

 

国内有数の規模を誇る物流拠点に、なぜ自然冷媒を選択することになったのか。そこには自然冷媒導入に際して、イニシャルコスト、ランニングコストを含めたコスト面での優位性、そしてアンモニア漏えいなど安全性に対する取り組みがあったなど、本誌取材にて本橋氏により詳しい背景、そして今後について話を伺った。

 

文: 佐藤 智朗、岡部 玲奈

三温度帯総合センター計画の推進 自然冷媒という選択

1712年創業の歴史を誇る国分グループ。常温の加工食品・酒類・菓子を取り扱う常温物流拠点、冷凍・冷蔵食品を取り扱う低温物流拠点がバラバラに運営されていたが、2012年5月に低温事業の強化を目的に「三郷流通センター」を埼玉県三郷市に開設。常温・冷蔵・冷凍という全ての温度帯を取り扱う事のできる「三温度帯総合センター」として開設された同センターは、常温・低温を含めたサプライチェーン最適化を実現し、新たな物流戦略確立の第一歩となった。

 

すべての温度帯を1カ所の物流拠点に集約することで、取扱商品は、加工食品・酒類・菓子を中心とした常温商品、日配商品・デリカ食品、青果を中心とした冷蔵商品、冷凍食品・アイスクリームを中心とした冷凍食品など多岐に渡り、フルライン対応のトラック導入と合わせ、一括物流による合理化・ローコスト化を実現させた。さらに、冷凍食品を施設内で解凍し、チルド食品として出荷する加工業務、野菜のカット・袋詰め業務など流通加工機能についても確保できたと、本橋氏は説明する。

流統括部 戦略推進担当部長 本橋 明夫氏

「国分グループは、加工食品・酒という常温商品が中心で、冷凍・冷蔵という低温商品の取り組みについては競合他社と比べて大きく遅れていました。競合他社は既に、温度帯別に物流機能を整備していたのです。そんな中、国分グループでは新たな物流コンセプトとして、すべての機能を合わせ持った三温度帯総合物流センター計画を進めてきました」。この「三温度帯総合センター」を全国に配置することで、「3OD+PLUS」という物流コンセプトを具現化させるという。三郷流通センターが建設されて約4年後、2016年2月には6 拠点目の三温度帯総合センターとなる「西東京総合センター」が東京都昭島市に開設された。

 

同センターは、常温エリアで20,000㎡、冷蔵エリアで7,600㎡、冷凍エリアで9,000㎡、ランプウェイなど付帯設備を含めると約58,000㎡もの規模になる、国分グループ最大級の物流センターだ。しかし、西東京総合センターの特徴は、その規模だけではない。国分グループとして初めて冷凍冷蔵機器に自然冷媒を選択した物流拠点なのだ。

 

「西東京総合センター」を皮切りに、2018年に「川口流通センター」、「船橋日の出流通センター」、2019年6月に「帯広総合センター」、9月に「関西総合センター」、そして2021年1 月予定の「(仮称)沖縄浦添流通センター」には、いずれも自然冷媒を選択した。「新設物流センターには自然冷媒を選択するというのが、現時点での当社のポリシーです」と、本橋氏は説明する。

定性分析、定量分析で自然冷媒の優位性をアピール

西東京総合センターで自然冷媒を選択するまでは、国分グループでは冷凍冷蔵設備にR410Aをはじめとするフロン冷媒を使用してきた。「自然冷媒導入には当初社内でも反対意見も多くありましたが、定量面、定性面でのメリット・デメリットを明確にして説明することで、導入に踏み切りました」と、本橋氏は当時を振り返る。反対意見の主な理由は、コスト面ではイニシャルコストの増加、安全面ではアンモニア漏えいがもたらす近隣住民への被害リスクだった。

 

しかし、「イニシャルコストだけの比較ではなく、水道光熱費、メンテナンスコストといったランニングコストの比較も合わせ、長期的な視点から見れば、投資するメリットはあると判断しました」。同社では自然冷媒導入後、外気温の環境が近い板橋総合センター(R410A)、西東京総合センター(株式会社前川製作所のアンモニア/CO2)、川口流通センター(日本熱源システム株式会社のCO2単独)の3拠点で年間を通して月間使用電気代を比較(尚、アンモニア/CO2冷凍冷蔵機器は水冷式のため、これにかかる費用についても合わせて把握)。

西東京総合センター屋外に設置された株式会社前川製作所のアンモニア /CO2冷凍機

調査の結果、外気の影響を受けるCO2単独冷凍冷蔵機器は冬場に最も効率的な運転効率を発揮し、一方、アンモニア/CO2冷凍冷蔵機器は猛暑が続く夏場でも高い省エネ効果を実現。「いずれの冷凍冷蔵機器も従来のフロン冷媒を採用した冷凍冷蔵機器に比べて、年間で30%の省エネ効果を得られました」と、本橋氏は説明する。「フロン冷媒を使った冷凍冷蔵機器はレシプロ式、スクリュー式の2つの方式がありますが、今回比較対象とした板橋総合センターの冷凍冷蔵機器はより高効率のスクリュー式が採用されています。レシプロ式のフロン冷媒を使った冷凍冷蔵機器と自然冷媒を比較すれば、更に大きな省エネ効果が生まれていることでしょう」

 

CO2単独冷凍冷蔵機器についてはメンテナンスコスト面でも優位性があるという。「自然冷媒冷凍冷蔵機器を導入することによるイニシャルコスト(投資コスト)の増加については無視できませんが、環境省補助金制度を活用することで低減できます。三温度帯総合物流センターは規模が大きいだけに補助金の申請が通れば、投資金額に対して30%の補助金が頂けるので、1億〜1.5億円のコスト削減につながります」と、本橋氏は述べる。

 

しかし、三温度帯総合物流センターは計画から竣工まで、およそ2年半かかる。補助金をもらう為には4月申請、6月内示、7月交付決定、翌年2月までに工事を終えなくてはいけないという、非常にタイトなスケジュールに沿わなくてはならない。そのために、補助金申請に合わせて建築スケジュールを調整する必要があり、スケジュール調整が出来ず補助金申請を諦めるという事もあったと、同氏は振り返る。

 

それでも自然冷媒を選択する国分グループ。「イニシャルコストは増えるものの、補助金が活用でき、さらにメンテナンスコストの低減、省エネ効果よるランニングコストの低減により、冷凍冷蔵設備を20年、30年と長期間継続使用することで、自然冷媒冷凍冷蔵機器はフロン冷凍冷蔵機器以上のメリットを享受できるという結論に至ったのです」

環境・安全対策など定性面についても評価

自然冷媒を選択する意義として、環境面への配慮、フロン規制の動きなど定性面での取り組み意義、安全性への配慮についても時間をかけて経営層に説明をしたと、本橋氏は言う。「国分グループは『人と社会に調和する商い(私たちは食を通じてこころ豊かな暮らしをお届けし、地球環境に「配慮した商いをいたします。」)という環境理念を掲げています。その一環として、廃棄物の処理現場視察、東京都埋立処分場の見学会、森林研修、エコ検定取得などを行っています。その方針の中には、物流など事業活動における省エネルギーの推進、温暖化効果ガスの抑制も含まれます。その理念に沿った計画が自然冷媒冷凍冷蔵設備の導入という訳です」

 

しかし、安全性という面での懸念については社内でも根強いものがあったという。「国分グループの物流拠点の一部は近隣住民の住宅と非常に近い距離にあります。最初に導入を検討した西東京総合センターの自然冷媒がアンモニア/CO2だったということもあり、アンモニア漏えいリスクを完全に否定はできませんでした。したがって、物流センターの立地条件を考慮して、近隣に住宅があるような場合には、CO2単独の自然冷媒を選択するという結論に至りました」と、本橋氏は説明する。

センター内を冷やすCO2 ユニットクーラー

その結果、西東京総合センターにアンモニア/CO2機器を導入。川口流通センター、船橋日の出流通センター、帯広総合センター、そして2019 年9月稼働予定の関西総合センターには、CO2単独自然冷媒を導入することとしている。一方で、年間を通して外気温が高く、海に近い立地である(仮称)沖縄浦添流通センターは、夏期でも省エネ効果の高いアンモニア/CO2自然冷媒を選択した。「このようにセンターの立地、環境によって適切な自然冷媒を選択していく予定です」

 

三温度帯総合物流センターは非常に規模も大きく、それに対応できる自然冷媒の冷凍冷蔵設備メーカーとしては、今までは同社は前川製作所、日本熱源システムを選択してきた。しかし、三菱重工冷熱株式会社、長谷川鉄工株式会社、パナソニック株式会社アプライアンス社をはじめとする新たな会社の動向についても、積極的に情報収集していくように部下にも指示していると、本橋氏は述べた。

 

環境面、安全面での課題をクリアする中、フロンにまつわる規制、法整備が自然冷媒の導入にさらなる追い風になったと同氏は言う。2019年1月の「キガリ改正の発効」に伴う「オゾン層保護法の一部改正」により、代替フロンについても従来の特定フロン同様、製造・輸入の規制措置が取られることになった。「フロン規制の方向性が明確になったことも含め、今後も自然冷媒の導入を定量面での比較を明確にして進めていきます」

行政へのリクエスト、今後の展望

ランニングコストで優位性のある自然冷媒冷凍冷蔵設備だが、やはり悩みの種となるのがイニシャルコストの低減だと、同氏は述べる。国分グループの三温度帯総合物流センターは規模が大きい分だけ、設置する冷凍冷蔵機器の台数も多くなる。そのため補助金をもらうことを念頭に綿密に計画を進めてきたものの、残念ながら補助金の申請を諦めた、また申請したが補助金をもらえなかったというケースもある。

 

「帯広総合センターはどうしても補助金申請のためのスケジュールに合わせることができませんでした。また関西総合センターについては申請をしましたが、補助金対象から外れてしまいました」と、本橋氏は説明する。「しかしながら、国分グループでは補助金はもらえなくても自然冷媒冷凍冷蔵機器については予定通り導入を進めました。私たちは新設の三温度帯総合物流センターについては、自然冷媒を導入していく予定です」。冷凍冷蔵庫の設置には、防熱工事、冷凍冷蔵設備設置工事、冷やし込みという工程があるが、補助金をもらうには「4月申請、6月内示、7月交付決定、翌年2月までに工事完了」が条件となるため、どうしてもスケジュールが合致しないケースもある。

 

「該当時期に着工すれば、翌年2月末までに工事が完了しなくても補助金申請の対象とするなど、制度が緩和されればより多くの企業が恩恵を受けられると思います」と、本橋氏はコメントした。その上で、「私たちは、省エネ効果、地球温暖化抑制という環境への配慮を考え、今後も補助金の活用を含め自然冷媒の導入を進めていきます。その結果、CO2単独冷凍冷蔵機器をはじめとした自然冷媒冷凍冷蔵機器の開発が活発化し、導入が増えることで自然冷媒冷凍冷蔵機器の価格が下がる結果になることを望んでいます」と、業界に対する期待も述べた。

川口流通センター内で稼働する日本熱源システム株式会社のCO2 単独冷凍機

今後は全国の大都市圏の中でまだ対応ができていないエリアにおける三温度帯総合センターの検討を進める一方、既存拠点の統廃合についても検討を進めていくと同氏は言う。海外については中国、ベトナム、ミャンマー、マレーシアに進出し、各国に三温度帯物流センターを有しており、シンガポールについても検討を進めている。しかし、各国の物流拠点規模、自然冷媒冷凍冷蔵機器メーカーの不足、アンモニア直膨への懸念などから、フロン冷媒を選択しているのが現状だと本橋氏は説明する。

 

国内有数の規模を誇る国分グループが自然冷媒に舵をきったことは、多いに注目される結果となった。そして、それを動かすきっかけとなったのは、フロン規制により結果的に自然冷媒に切り替えたという事ではなく、積極的な情報収集、数値を基にした比較検証だった。大手企業が方向性を変えるという事は決して簡単なことではない。しかしそれを実現させたのは、紛れもなく同社が持つビジョンであり戦略だったのだ。

 

『アクセレレート・ジャパン』23号より