モントリオール議定書キガリ改正で合意されたHFCの排出目標は、パリ協定で謳われている「地球の気温上昇を1.5℃以内に抑える」という目標とは相容れないものである。ウィーンの国際応用システム分析研究所(IIASA)の研究者がこう結論付けた研究が、科学雑誌『Nature Climate Change』に掲載され話題を呼んでいる。
「野心的な目標」が必要
「HFCの排出削減に関する現在の目標は、パリ協定の1.5℃目標を達成するのに不十分です。キガリ改正に基づくより野心的な目標よりも各国が早期的な行動を実現できれば、パリ協定の目標達成に貢献できるでしょう」この研究の主執筆者で、IIASAエネルギー・気候・環境プログラムの汚染管理研究グループの上級研究員であるパラブ・プロヒット氏は、研究発表に際してこのように述べた。
この研究「パリ協定達成には、キガリ改正以上の野心的取り組みが必要(“Achieving Paris climate goals calls for increasing ambition of the Kigali Amendment,”)」において、この食い違いは主にキガリ改正におけるHFC排出量の計上方法に起因すると報告している。この排出量は主にHFCの消費と生産に関連するもので、製造、使用、機器の廃棄に由来する排出量は完全に考慮されていない。
同研究所独自のモデリングツールを用いて、HFCの排出を抑制しない場合(すなわちキガリ改正による規制がない場合)、2019年から2050年の間に920億トン以上のCO2が発生することが分かった。キガリ改正では600億トンの削減を実現し、約320億トンのCO2排出量を維持する必要があります。しかし研究者らによると、気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには、最大160億トンまでCO2排出量を減らす必要があるという。
パリ協定で定められた制限内にとどまるためには、HFCに対する対策を強化し、より迅速に行うことが必要であるとしている。研究者たちは、モントリオール議定書の採択以来、採用されている「開始と規制強化」のアプローチを用いて、迅速に行動を起こすことを求め、いかなる行動も最新の科学的証拠に従って形成されるべきだとする。
キガリ改正の効果を最も確かにするには、すべての国に「2050年までにHFCを95%削減すること」を要求し、削減ペースを加速させることに他ならない。例えば先進国は、現在要求されている35〜40%の削減ではなく、2025年までに55%のHFC削減を達成する必要がある。発展途上国は2030年に0〜10%削減から35%削減を目指す必要があるといった具合だ。
これらの変更により、2050年のCO2排出量は240億トン以下となり、現在求められている160億トンよりには届かないものの、パリ協定で設定された気温上昇に近づくことになる。
この調査について、冷房・冷蔵の二酸化炭素排出量削減イニシアチブ「Cool Coalition」は、キガリ改正の下でより強力な行動を起こせば、古い冷却装置を自然冷媒を使用したより効率の良い新しい機器に交換するチャンスになると強調した。
同連合はこのような動きにより、将来予想される世界の電力消費量の最大20%を節約できるとも見積もっている。また、HFCの段階的削減の恩恵を他の産業にも拡大し、大気汚染を軽減し、エネルギーアクセスを改善し、消費者のエネルギー料金を削減することができるだろうとした。
HFCの排出削減に関する現在の目標では、パリ協定の1.5℃目標を達成するのに十分ではありません。キガリ改正に基づくより野心的目標を立て、かつ各国が早期に行動すれば、パリ協定の目標達成に貢献することができるでしょう。
IISA パラブ・プロヒット氏
参考
Kigali Reduction Targets Not Compatible with Paris Agreement, Study Reports
※本記事は英語で作成後、日本語に翻訳されております。
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