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CO2冷凍機の導入を決めた基準と哲学 河合製氷の福岡第2物流センター

2018年6月20日、福岡県でCO2物流センターの施設訪問ツアーが開催された。本ツアーではCO2単独冷媒冷凍機を導入した、芳雄製氷冷蔵と河合製氷冷蔵の物流センター2カ所を訪問し、実機の稼働状況を直に見学。まだまだ件数の少ないCO2冷凍機導入の実態は、エンドユーザーにとって有意義な情報だ。本誌編集部もこのツアーに参加。計10台のCO2冷凍機を新設物流センターに設置した、河合製氷冷蔵の代表取締役社長 河合 喜文氏に、今回のCO2冷凍機を導入するに至った背景や今後の展望について取材した。

 

文: 佐藤 智朗、岡部 玲奈

空冷式・セパレート型の冷凍機を選ぶ理由

一般社団法人日本冷蔵倉庫協会の会員を対象に開催された、施設訪問ツアーで見学することとなったのは、6月1日に竣工した河合製氷冷蔵の福岡第2物流センター(福岡糟屋郡)である。敷地面積16,475.41㎡、冷蔵庫規模は約22,500tのセンターには、日本熱源システムのCO2単独冷媒冷凍機が10 台(F級8台、C級2台)設置されている。センターは低温室で5度、SF級倉庫では-40度の温度帯で運用されている。観測市観測史上最高の猛暑を記録した今夏、福岡県でも外気温が33度を超えるなどの暑さに見舞われることがあったが、その中であっても冷凍機はスペック通りの冷却性能を発揮している。

河合製氷は2018年時点で4拠点の物流センターを有しているが、1995年竣工の第2拠点、古賀物流センター以降、同社が竣工・管理する拠点に設置している冷凍機には全て空冷式を採用する。「水冷式の方が熱交換率は高く、冷凍冷蔵倉庫では水冷式への支持が今も根強いと聞きます。しかし災害時に断水してしまうと、復旧に大きな時間がかかります。また冷却水が循環する過程で濃縮されることにより、配管にスケールが発生するなどメンテナンスもする必要があります。加えて省エネ性能も加味すると、同社では『空冷式・セパレート』という方式が、冷凍機を選択する上での基準となっているのです」

国内外の入念な視察を通じて導入を決意

CO2に大きく舵を切ったきっかけは、福岡県冷蔵倉庫協会で冷凍機メーカーの説明会を開催した際にメーカーである日本熱源システムを招き、CO2冷凍機の特徴や各種機能の性能を聴く機会を設けたことにあったという。CO2単独冷媒冷凍機は、同社が欲する規模に合致したものだった。一方で、当時まだまだ実績が少ない冷凍機の運用に、不安も多かった。そこで昨年秋に取締役会長で兄である河合 弘吉氏が日本熱源システム代表取締役社長の原田克彦氏と共に、ヨーロッパへ飛んで現地メーカーの様子を視察した。

 

「現地ヨーロッパの部品メーカーの取り組みや、組み立てメーカーの実績と、現状の日本熱源システムの取組を比較してこれなら大丈夫だという安心を得ました」。河合氏は海外の情報収集を通じて、確かな手応えを掴んだ。また同社は、2016年12月に竣工し、国内で初めて冷凍冷蔵倉庫にCO2システムを導入した東北水産(青森県八戸市)の冷凍倉庫と、同じくCO2システムを2017年2月に導入した島倉水産もそれぞれ見学。安定した稼働を続ける2カ所の工場を見学したことで、冷却性能を実感した同社は、ついにCO2システムの導入を決意。

Güntner製CO2ユニットクーラー

産業用冷凍機の冷媒の選択肢としてはまだまだアンモニアが主流だが、CO2を選択した背景を河合氏は次のように説明する。「アンモニア自体の性質は、非常に優れているとは思います。しかしアンモニア、アンモニア/CO2の冷凍機は水冷式のみであり、弊社の掲げる基準に当てはまりませんでした。またアンモニアには、漏洩リスクなどの危険性も付きまといます。こうした背景に加えて、ヨーロッパや青森の視察を通じて原田社長のCO2冷凍機の熱意に感銘を受けたことも決め手となり、最終的にCO2を選択しました」

継続的な設備導入体制のために必要なこと

フロンから自然冷媒への切り替えが現実的になる中で、多くのエンドユーザーが抱えるのは運用実績が少ないことに対する不安である。そういった意味で、河合製氷冷蔵の大規模な福岡第2物流センターへのCO2冷凍機導入の業界からの注目度は非常に高い。同社では現在、既設の物流センターでは主にR22冷媒の冷凍機を使用している。運用年数に応じて順次設備の更新が進められるわけだが、今回のCO2冷凍機の消費電力量などのデータが良好であれば、切り替えのスケジュールを早める可能性もありうると、河合氏は期待を寄せている。すでに自動制御による効率的な運転による省エネ性は、肌で実感しているという。

CO2冷凍機で冷やされた倉庫内観

日本国内でも徐々に増えつつあるCO2大型冷凍機は、その存在感が大きくなる一方で、納入実例はまだまだ少ないのが実情である。「現行のCO2冷凍機の性能には満足していますが、メンテナンスやサービス体制は、今後さらに拡充していくべき分野かと思います。オーダーメイドで大規模な設備を製造してきた日本熱源システムは、滋賀の工場で本設備を大量生産できる体制を整えているところと聞きました。私たちもこれからCO2冷凍機を採用する立場として、共に成長していかねばと感じています」と、河合氏は意気込みを語った。

 

合わせて同氏は、訪問ツアーなどを通じて、同業他社やメーカー、これから自然冷媒の設備導入を検討することとなる日本冷蔵倉庫協会メンバーを巻き込み、情報交換と議論が交わされることの重要性も口にした。また、フロンから自然冷媒へ移行するには、政府の働きがけも欠かせないと河合氏は言う。「補助金による継続的な導入支援は、今後も続けて欲しいところです。私たちの業界は、古くからアンモニアを冷媒に使用していました。しかし毒性・可燃性への懸念から、政策としてフロンが推奨されることに。そして今、その方針がまた自然冷媒へと変わりました。まさに180度の方針転換がなされている現状に対して、責任を持ってこの動きをサポートして欲しいと思っています」 

 

『アクセレレート・ジャパン』21号より

参考記事

東北水産と島倉水産取材記事