2019年5月、IEC(国際電気標準会議)が可燃性冷媒の充填量制限を引き上げ案が可決され、にわかに炭化水素の用途拡大に大きな期待が寄せられた。そして、国内における可燃性冷媒の安全使用に伴う重要な指標となるリスクアセスメントも、いよいよ最終結果を迎えることとなりそうだ。
オンライン開催の「環境と新冷媒 国際シンポジウム」で正式に発表予定
IECの議論にも参加していた一般社団法人 日本冷凍空調工業会(以下、日冷工)は、国内にて2016年7月に発足した「内蔵ショーケースリスクアセスメント WG3」を編成するなど、充填量引き上げの議論と並行して、安全確保の方策を議論してきた。
リスクアセスメントの検討状況は、2018年12月に日冷工が主催した「第13回環境と新冷媒 国際シンポジウム」で発表。そこからさらに検討を加えたガイドラインが、現在最終段階に入っている。
日冷工内蔵ショーケースリスクアセスメント WG3では、現状の課題として、機器廃棄時の産業廃棄物としてのハンドリングが挙げられると考えている。
そのため、このガイドラインと並行して、日冷工はリサイクルセンターなどに配布する廃棄マニュアルも作成する予定としている。啓発活動については、行政を交えて具体的な方向性を議論する必要があるだろうと、長谷川氏は指摘する。
「スピード感」と「安全性」の両立に注目
2019年の取材時、可燃性冷媒の規格ガイドラインは「内蔵ショーケース」を対象としたものであった。しかし、その後IEC規格と同様に、業務用(厨房用)冷蔵庫を含む内蔵形冷凍冷蔵機器全般の規格ガイドラインとし、改めて検討し直したものとなっている。
現在、メーカーをはじめとする各社からは、「発表されるガイドラインは、欧州基準よりもはるかに厳しいものになるのでは」という声があがる。それに対して、長谷川氏は国内規格がガラパゴス化するという意見も認識しつつ、安全性をないがしろにしない方向性を見出す必要があることを強調した。
可燃性冷媒の技術開発は、今後もスピーディな市場開拓といった経済的側面と、安全性の側面との間で絶妙なバランス調整が求められることとなるだろう。同時に、脱炭素社会実現に欠かせない存在であるエンドユーザーが、性能面・価格面で自然冷媒機器の選択を躊躇ってしまうようなことだけは避けたいところだ。
相互の緊張感ある関係が、互いへの足かせになることなく、むしろ今後日本からニュースタンダードとなりうる炭化水素技術・製品へつながることを願いたい。
今回制定されるガイドラインなどの検討結果は、2021年10月14日、15日の2日間で開催される「環境と新冷媒 国際シンポジウム(通称「神戸シンポ」)」で公表される。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、今回は初のオンライン開催を予定しているという。ここが日本にとって、炭化水素市場の「一大スタート」になることだろう。