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【連載:変化に立ち向かうHVAC&R業界のリーダーたち】第6回 Nidec Global Appliance〜混乱期で得た「想定外の利益」〜

新型コロナウイルスの感染拡大は、世界各地に猛威を振るう結果を生んでいる。事業単位に目を向けてみれば、事業継続のためにオフラインからオンラインへ移行する動きが、活発に行われている。

 

HVAC&R業界もまた、国内外を代表する展示会の多くが、延期および中止を余儀なくされた。この激動の時代に、国内企業はどのような対策を行い、変化し成長しようとしているのか。

 

『アクセレレート・ジャパン』では、日本を代表する機器メーカーのトップにアンケートおよび取材を実施。彼らの回答から、業界が連携してこの危機をチャンスとするためのベストプラクティスを共有する連載をスタートさせた。

 

第6回は、Embraco(Nidec Global Appliance)。オンラインマーケティングや教育ツール活用への移行、さらにリモートワークへの切り替えを進めてきた同社は、各活動の「想定外のメリット」について話してくれた。

短期・中期・長期で違いが見られるプロジェクトへの影響

「新型コロナウイルス感染症拡大がもたらす現在、そして将来的な経済・健康問題の影響の大きさへの懸念については、あらゆる企業の皆様と同様の思いを抱いています」。そう話すのは、日本電産株式会社のEmbracoポートフォリオ セールス・マネージャーを務めるギルヘルム・フィゲイレド氏である。

 

感染拡大が世界的な問題となった直後、短期的な懸念事項として同社が直面したのは、ビジネスの安定性、販売、生産とあらゆる事業活動の安定・維持だったという。それと平行して、サプライチェーンに対する問題も浮上した。

 

感染拡大のピーク時には、顧客のビジネスにも大きな打撃となり、短期的なスパンで予定されていた複数のプロジェクトは、保留されることとなったのである。

 

長期的な計画に関しては、現在日本顧客を中心に計画通り進行予定である。しかし、今後2022年〜2023年に開始予定のプロジェクトでは、大きな混乱を伴うだろうという見方も示す。

 

短期・長期と各種計画に影響がある中、中期計画のプロジェクトには、2つの傾向があるとフィゲイレド氏は話す。

 

「マーケット主導の計画に関するプロジェクトは、2020年度のコスト低減を目的に、プロジェクトの延期を決定する傾向にあります。しかし国内規制動向によって各種機器の導入を推進する場合は、スケジュールへの影響が非常に低いです」(フィゲイレド氏)

デジタルツールの充実

Embracoはこれまで、精力的にトレードショーを含むあらゆるイベントに参加してきた。それらが次々とキャンセルされ、マーケティング活動が大きく停滞してしまうことに。

 

それでも、同社はsheccoが主催した、2020年7月28日開催のATMOsphere Australia、9月1日〜2日開催のバーチャル自然冷媒トレードショー(VTS)などに出展。混乱の中で新たに生まれたビジネスチャンネルを、最大限活用している。

 

また、この危機に対して冷凍冷蔵機器専門家向けのオンライン教育や、デジタルコンテンツの生成に焦点を当てたプロジェクトに、多くの時間とリソースを投資している。

 

「私達は現在、ポルトガル語、フランス語、英語、スペイン語で一連のウェビナー資料を作り、弊社プラットフォームRefrigerationClub.comに向けた新しいコンテンツ作成に尽力しています」(フィゲイレド氏)

 

さらに、プロフェッショナルをサポートするための製品ソフトウェア(PSS)と、ツールボックスアプリのアップデートも推進。

 

こうしたデジタル施策は、顧客、指定者、請負業者、冷凍技術者との関係強化に大いに役立った。特に日本では、新プロジェクト・新製品の発売を市場に広く認知させるため、日本語カタログの充実化とニュースレターの頻度を改善などを行ったという。

急速な時代の変化に、全社一丸で対応

安全性の高い事業活動の維持では、感染の中心地に近いアジアの仲間の経験などを共有してもらい、欧米の各工場・オフィスの感染予防対策に役立てるため、各国支社と連携して行動するための国際委員会を設置した。

 

これにより、通信や清掃、衛生管理等の手法を確立を確保しつつ、継続的な事業運営を実現した。さらに、リモートワークによるコミュニケーション、社員教育の術を学んだことは、会社のダイナミックさに著しい変化をもたらしたとフィゲイレド氏は言う。

 

「私達管理チームは、可能な限り在宅での仕事を奨励されています。それでも、私たちはお客様と距離を縮め、製品を立ち上げ、バーチャルトレードショーに参加することができました。この混乱期で何か得られたものはと問われれば、『社会通念と考え方の急速な変化に対応する力』と言えるでしょう」(フィゲイレド氏)

 

Embracoのケースでは、他のリモートワーク実施企業と同様に、設備メンテナンスや集団輸送などのコスト削減に成功。今回の試みの価値と効率の高さが実証されたという。しかし、フィゲイレド氏は今回の試みで得られた真の成果は、別にあると述べた。

コロナ禍で続けられた活動は、会社全体で困難を乗り越えようと新しい方法を採用するために、より早く、よりオープンな社風を作るきっかけとなりました。

 

困難な時代に成功するための柔軟性と適応性を見出し、共通のゴールへ向かって行動を共にすることができたのです。

Embracoポートフォリオ セールス・マネージャーを務めるギルヘルム・フィゲイレド氏

今以上の品質のソリューションを市場へ

コロナ禍のピークから、徐々に冷静さを取り戻す市場に対して、Embracoは今以上にコスト削減を可能とするソリューションの提案が必要と考える。

 

そこで、同社はプロジェクトパイプラインの再構築を実施。顧客のニーズに答えられるよう、現在と同水準の技術を維持したまま「標準化」「小型化」の2要因を満たすソリューション開発に焦点を当てる。

 

その一例として、フィゲイレド氏は新たに開発する三相電圧コンプレッサーを紹介。従来システムと比べ、より小さなサイズで同等の冷却能力を実現している。

 

同様に可変式コンプレッサーにも、三相電圧機能の追加で効率性を高めた。どちらのシステムも、まもなく日本市場で発売予定だという。

 

現在は、日本市場向けコンデンシングユニットのポートフォリオ立ち上げに取り組む。より精度の高いソリューションを提供し、Embracoの主力製品であるコンプレッサーと同等以上の品質を提供。顧客のコスト低減に、一層寄与していきたい考えだ。