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第4世代冷媒HFOのたどるべき道

CFCやHCFCに続く第3世代冷媒であるHFCが普及。そして2016年のモントリオール議定書キガリ改正の下での国際的なHFC段階的削減は、より環境に優しい代替品として自然冷媒の台頭を引き起こした。しかし一方で、HFCからHFO(ハイドロフルオロオレフィン)として知られる第4世代のハロゲン化冷媒にも引き継がれている。はたしてHFOはHFCの代替品として機能するのか、それとも前者と同じ規制の運命に苦しむことになるのだろうか?

 

文: マイケル・ギャリー、桃井 貴子

HFO に対する数々の懸念

最も一般的に使用されているHFO、R1234yfは世界中の政府環境機関の承認を受けている。しかし、R1234yfはGWPが4と低く、オゾン層を破壊しないものの、環境と人間の安全性に関してはいまだ疑問が提起されたままだ。

 

R1234yfは大気寿命が最大でも2週間あり、分解後は耐久性の高いトリフルオロ酢酸(TFA)になる(R134aの7% ~ 20%、および別のHFO であるR1234ze(E)の10%未満がTFA に分解される)。TFAは降雨によって「酸性雨」とした形で地上に降り注ぎ、河川や湖、湿地、海などの水域に蓄積する。水域ではTFAはカルシウムやナトリウムなどのミネラルと反応して、トリフルオロ酢酸塩を形成する。TFAが環境に害を及ぼす可能性について多数の研究が行われているが、多くはTFAの蓄積は非常に少ないため、近い将来に環境と人類に脅威を与えることはないとされる。

 

しかし、量が多ければ破壊的な物質になる可能性を持つことも否定できない。TFAそのものは吸入すると有害であり、重度の皮膚火傷を引き起こす。また1mg/ lに近い低濃度では、一部の水生生物にも有毒だ。国際環境NGOのグリンピースはTFAに関して、「TFA 蓄積の許容範囲については十分な知見がない」という立場だ。同団体のシニア政策コンサルタントであるジョン・マテ氏はさらに、「HFOおよび他のTFA を生成する物質の生産ピーク、およびTFA の環境への長期的な寄与が完全に理解されるまで、HFO の利用拡大を防ぐ必要があります」と付け加えた。

 

別のNGO である環境調査エージェンシー(EIA)もまた、分解後のTFA の潜在的な影響について懸念を表明している。欧州連合(EU)では、気候行動総局長であるフィリップ・オーウェン氏が、2017年のモントリオール議定書第29回締約国会議でR1234yfのTFAへの分解については、「さらなる研究と評価を必要とする懸念事項」だと表明した。だが、2018年のモントリオール議定書環境影響評価パネル(EEAP)には「TFAは人間や環境にリスクをもたらすとは予想されていない」と示された。

 

オーウェン氏は「11月に行われる次回報告書の参照条件の交渉では、TFAがモントリオール議定書のEEAPで引き続き対処されるよう努力する」と話す。EU最大の加盟国であるドイツは、R1234yf に慎重な目を向けている。ドイツ環境庁は「環境の観点から、R1234yf 冷媒は総合的に満足できる解決策ではない」と述べている。

ノルウェーの研究によるTFAの評価では、生物および人の健康への予測される毒性リスクが低いだろうと結論づけられたが、一部例外もあったという。それは、非常に敏感な藻類(淡水緑藻)への影響である。ノルウェーの研究では、水生生物群集に対するTFAの影響の分析で、EUSES(欧州連合物質評価システム)を使って、PEC(予測される環境濃度)およびPNEC(予測される影響なし濃度)の基本分析を行った。

 

すると、マラウイとチリの土壌およびドイツの地表水における予測されるTFAの上部環境濃度は、それぞれ0.0075mg / l、0.0094mg / l、そして0.14mg / l に相当することが判明した。淡水緑藻の場合、これらはPNECで「最も毒性がある」と判断される0.0062 mg / l よりも高い数値である。この結果から、報告書は「HFO の使用には環境リスクが存在することと等しい」と示された。

HFOがグリーン冷媒と呼ばれる日本への提言

2015年、日本ではフロン使用製品にフロンが使われていることを「見える化」する必要があるとの議論から、「フロンラベル制度」が導入された。この中で、ノンフロンとして表示されるものには、CO2やアンモニアなどの自然冷媒とHFO(HFO1234yf、HFO1234ze、HFO 1234ze等)が同等に位置付けられたのである。現時点でこれらの冷媒は、「フロン排出抑制法」の対象にも加えられず、回収破壊も対象外とされている。 

グリンピース シニア政策コンサルタント ジョン・マテ氏

また2019年6月に政府がまとめた「パリ協定長期低排出戦略(長期戦略)」では、フロン対策の位置づけとして、「世界に先駆けてオゾン層を破壊せず温室効果も低いグリーン冷媒と、それを用いた機器技術を確立し、世界のフロン類対策を技術でリードする」と示された。ここでいう「グリーン冷媒」とは自然冷媒およびHFOの両方を指すと政府は説明している。さらに「長期戦略」では、「グリーン冷媒技術の開発・導入」を推奨し、「世界に先駆けてグリーン冷媒市場を創出し、フロン類使用製品のグリーン冷媒化を加速する」とも示している。

 

しかし、ここまでに上述されたことをふまえれば、HFOを制限なく増産させるのではなく、HFOやその分解後のTFAに関する毒性評価や環境影響をすすめ、それが完全に解明されるまでは、予防原則に基づき、最低限の利用に留めるべきであろう。