2018年2月27日〜3月2日の4日間で幕張メッセにて開催された、日本最大の冷凍・空調・暖房機器展「HVAC&R JAPAN 2018」にて、原製作所は本誌に、独自開発したCO2ユニットクーラーの試験運転を進めていることを語った。本社のある稲敷工場に設けられた実験室での検証を重ね、同社はCO2直膨対応クーラーを今後正式に販売開始する。常に技術の研鑽を重ねてきた原製作所の開発ストーリーと未来への展望を、新しく社長に就任した原 正憲氏に聞いた。
文: 佐藤 智朗、岡部 玲奈
顧客からの要望で始まったCO2ユニットクーラー開発
昭和22年に創業した熱交換器・ユニットクーラー専門メーカーとして活躍してきた株式会社原製作所(本社: 茨城県)。稲敷市の本社では昨年2017 年に事務所が新築されたのと合わせて、CO2ユニットクーラーの試験室が新たに誕生した。2018年3月より運転を開始し、現在も日々の稼働データを採集・検証している。同社が自然冷媒採用のユニットクーラーに舵を切ったのは、ユーザーから届けられるCO2機器の要望の声だったという。
「『原製作所ではCO2ユニットクーラーを販売しないのですか?』というお客様の声を、約5 年前から耳にするようになりました。2016年の夏、パナソニックの冷凍機部門を担当する方から相談を受けたことが、開発検討の決定打となりました」。今年10月1日より正式に代表取締役へと就任した原 正憲氏は、当時のことをそう振り返る。当時、パナソニック株式会社(本社: 大阪府)では、高馬力のCO2冷凍機を製品ラインナップに持ちつつも、その出力を1台でまかなえるユニットクーラーは存在しなかったのである。
原製作所はカタログ製品だけでなく、顧客ニーズに合わせてクーラーを製作・設計する特型クーラーを得意としている。CO2ユニットクーラー製造においても、約60 年というユニットクーラー生産の歴史で培われた高い技術力と柔軟性が大いに発揮された。とはいえ、当時は自然冷媒に大きく舵を取るという決断に至ったわけではないと原氏は語る。「パナソニック様の依頼に対して、お互いに情報共有をしながら『試しにやってみよう』という形でプロジェクトがスタートしました」。
そして2018年10月15日、同社はCO2冷媒直膨クーラーの販売開始を正式に発表した。販売されるのは、天吊型のTF タイプとダンパー・フードのついたTDFタイプの2 種類。倉庫を対象に、販売開始から1年間の販売台数目標は約20台だと原氏は見据える。

自由な開発の裏側に隠された部品調達の苦難
CO2ユニットクーラーの開発を任されたのは、技術部開発課 係長の武智 貴央氏と設計課の島根 一旭氏だった。新しく建設された実験室を活用して、試験運転までに様々な角度からの実験を行ったという。これまでCO2冷媒に関するノウハウがなかった原製作所だが、外部の専門家は招聘せず、社内で蓄積された技術を駆使し、3月中旬の試験運転開始までこぎつけた。
「稼働したデータは、当初想定していたものにかなり近い値でした。当社がこれまで蓄積してきたフロン系冷媒の実験データと比較して、低温度(マイナス20〜30℃)で熱交換性能が向上しています」と、島根氏は検証結果を示す。現在20馬力相当のクーラーは即受注可能で、今後30馬力やそれ以上の大型に対応したクーラーは、将来的な方向性として視野に入れているという。
CO2ユニットクーラーで悩まされたのは、CO2冷媒の圧力の高さへの対処だったという。フロン系冷媒と比べて配管や溶接部に強度が必要となるため、溶接方法の確立や溶接作業者の教育訓練、外部への耐圧評価試験などの試行錯誤を繰り返し無事に初号機を完成させた。さらに、試験運転にあたり悩まされたのは、制御機器の調達であったという。国内ではまだまだ製品選択肢が少ないほか、同社のような小口注文に対応できるメーカーは少なく、難航したと原氏は言う。その中で調達可能だったものが、イタリアに本社を置き電子膨張弁・プログラム制御装置の大手メーカーであるCAREL Japan株式会社(本社: 東京都)の電子膨張弁だった。
各種部品の専門メーカーが生産・販売を分担している海外の市場と異なり、日本では近年大手メーカーが部品の製造も自社でまかなうという形が増えている。こうした国内の状況において、製品の安定供給を可能とするサプライチェーンの確立が、原製作所をはじめ中小メーカーにとっての重要な課題と言えるかもしれない。現状のCO2ユニットクーラーの製品価格は、従来のフロン対応機と比較して約1.5倍高い。部品の安定的な調達と選択肢の拡大は、初期費用削減にも好影響を与えることだろう。

市場の求める製品を世へ送り出す
代々家族経営を続けてきた原製作所は、10月1日に就任した原氏が3代目となる。先代、先先代の社長は生粋の技術屋という背景を持ち、原氏は営業部での経験を経て取締役社長に就任した。これまで同社の開発方針は、技術にこだわりを持つ経営陣のトップダウン方式で進められることが多かったという
「CO2ユニットクーラー開発の端を発したのは、お客様からの要望がきっかけでした。その声に応えようと、経営陣、技術部含め会社全社的にコンセンサスを得たのです。この流れは、当社の歴史でもあまりないものでした」と、原氏は当時の経緯を語ってくれた。顧客目線で始まったCO2機器だが、関係者からはユニットクーラーだけでなく熱交換器も生産・販売して欲しいという声も届いているという。
特に、大規模な食品倉庫や加工工場が対象だ。「こうしたご要望に、今すぐ対応するのは難しいです。必要な材料の調達と技術の向上、気密試験を行うための専用設備の用意など、課題は残っています」と、原氏は説明する。
はじめてCO2ユニットクーラーについての相談を受けた約5年前から現在まで、自然冷媒を求める声は年々増えている。大きなきっかけとなったパナソニックをはじめ、フロンティア精神を持った挑戦好きな企業と協力しながら、省エネかつ環境にも優しいCO2機器作りにチャレンジしていきたいと、原氏は述べた。
「当社はこれまで、『我々はこれを作りたい』という技術志向が先行していました。今後は市場の声、お客様の求める声をつぶさに耳を傾け、チーム一眼となって開発に進んでいきたいと考えています」
原製作所の取り組みは、まだまだ始まったばかりだ。今後同社は、設備・ノウハウ・部品調達といったいくつものハードルを乗り越えることとなる。国内のCO2市場発展もまた、行政によるフロン規制の強化や社会全体での自然冷媒ニーズ底上げなど、多くの課題を抱える。需要と供給の両輪がうまく噛み合うためには、原製作所のようなメーカーの前衛的戦略が必要不可欠だ。
『アクセレレート・ジャパン』20号より