2022年6月27日、ATMOsphere主催の国際会議「ATMOsphere(ATMO) APAC Summit 2022」の一日目となるイベントが、東京コンファレンスセンター・品川にて開催された。二日間の日程で開催される本イベントにおいて、一日目は日本市場に焦点を当てた各種セッションが展開された。
本会議の新たなセッションである「空調・プロセス冷却分野における自然冷媒技術」では、不二熱学工業株式会社 研究開発センター センター長 中川 信博氏が登壇。同社が株式会社メイワと協働開発するR290小形空調用チラーについて、開発に至った経緯や現在の取り組みを発表した。
背景
不二熱グループは、空調衛生設備の設計、施工、サービスをトータルサポートしている。日本の業界における空調設備は、R32が主流。近年の評価では、R32のGWPが771と、フロン排出抑制法の定める目標(750)をオーバーしている。グリーン冷媒開発に関しても、市場では5種混合、6種混合の低GWP冷媒が開発されている。サービス面においては、現地での充填でこの冷媒の組成比を守れるのかという問題が残ると中川氏は話す。
低GWPへの転換は不可欠だが、一方で「可燃性」という問題とトレードオフの関係にあることも、業界を悩ませている。約2年前から、食品工場など大規模設備を持つエンドユーザーに対して、冷媒に関する問い合わせも増えてきたという。特に空調に関しては、将来的な冷媒選択について、不安を覚えている事業者が非常に多い。
それならば、弊社が低GWP冷媒を使用した空調機を開発して、お客様の要望に応えようではないかという方針が、社長から出されました。
不二熱学工業株式会社 研究開発センター センター長 中川 信博氏
不二熱学グループはメーカーではないため、同じ意思を持つ企業である株式会社メイワと協働開発を進めることに。同グループは空調機器開発を通じて、可燃性冷媒の取り扱いに関する知見を養い、将来的により幅広いサービスを展開できるという戦略を立てる。今後の計画としては、2023年末に3馬力クラスの小形店舗用R290チラーを開発し、その後5馬力クラスの機種を開発していく予定だ。
不二熱学は、当初「R290」と「R1234yf」の2つで冷媒を検討したという。両冷媒とR410Aで比較したところ、圧縮機気筒容積、充填量、冷媒価格でR290のほうが優れている結果に。
製品コンセプト
こうした比較を通じて、R290小形空調チラーでは次のようなコンセプトが検討・決定された。
- 水循環方式を採用することで、室内にR290が漏れることを防止
- R290が漏れても電気回路に触れないように、制御部と機械室を分離
- R290検知センサを備えて、漏洩時はファンで強制拡散
- 異常を遠隔監視で早期発見
- エアコンと同等の操作性
- 設計、施工、保守点検をワンストップで提供
2022年12月にはほぼ量産に近い試作機が完成する予定で、合計5機種を開発・販売する計画を建てている。現在、COP改善のための配管系統の見直し、サービスしやすい筐体設計の改善を行っている。メイワ側は制御系統の開発を進めている最中だ。
今後は、コスト低減と施工・点検時の規定作成という大きな課題に取り組んでいるという。2023年にはフィールドテストを実施。データ管理・蓄積を進めつつ、メイワでは可燃性冷媒に対応した製造設備導入を進める。不二熱学は、施工・サービス方法の策定及び、教育システムと運用体制を構築する。
各種マニュアルの整備を行った後、2024年4月に量産・販売予定である。
その後の展望として、「空調用チラーの大型化及び利用側端末の拡充」「冷凍・冷蔵用コンデンシングユニット開発」を進めていく予定だ。展望実現のため、これからも協働開発企業・部品それぞれの探索を進めていきたいと、中川氏は述べた。
参考
「ATMO APAC Summit 2022」
不二熱学工業株式会社 研究開発センター センター長 中川 信博氏
