2021年、9月28日〜29日にオンラインで開催された「ATMOsphere Europe Summit 2021(ATMO EUROPE 2021)」にて、 HVAC&R業界の専門家達は、HFO-1234yfがHFCの代替としてカーエアコン(MAC)などに広く使用されるようになったことで、耐久性の高い化学物質であるトリフルオロ酢酸(TFA)が大気中や飲料水に含まれるようになるのではないかという懸念が高まっていると警告した。
TFAの沈着が最大250倍にまで増加
同会議では、冷媒が健康、安全、気候に与える影響についてのセッションを開催。そこにはドイツ・カールスルーエ応用科学大学教授のマイケル・ カウフェルド 氏、ドイツ・環境コンサルタント会社Öko-Rechercheのプロジェクトマネージャー、デビッド・ベーリンガー氏、ベルギーの環境NGO・Environmental Coalition on Standards(ECOS)のプログラムマネージャー、カロリナ・コロネン氏、ドイツのエンジニアリング会社Refolution IndustriekälteのCEO、トマス・フランク氏がそれぞれ登壇した。
HFO-1234yfは、大気中で10〜12日以内に完全にTFAに変化し、雨水に乗って地球上の地域に流れ着き、淡水域や飲料水に蓄積される。HFO-1234yfがMACで代替しているHFC-134aは、13.4年かけて広範囲に分散してTFAに変化するのは、わずか7〜20%と言われる。しかし、 カウフェルド 氏が引用した研究によると、HFC-134aからHFO-1234yfへの移行により、TFAの局所的な沈着が最大で250倍になるという。
TFAは、PFASと呼ばれる耐久性の高い化学物質に属している。飲料水からの除去が非常に難しいため、TFAの局所的な沈着量が多いと、「地域の地下水や飲料水への負担が大きくなる」とフランクは説明する。
「TFAはいったん環境中に入ると、そのままになってしまいます。「大量のTFAを環境中から除去する方法はありません」(ベーリンガー氏)
パネリストたちは、ヨーロッパでTFAの蓄積が進んでいることを示す研究を引用。ベーリンガー氏はドイツ環境庁(UBA)の委託を受けて、ドイツ国内の8か所で行われた雨水中のTFA濃度を測定する2年間の研究に参加。
2018年2月~2019年1月の期間で566mmの降水量のうち、平均0.330μg/LのTFAが検出された。そして2019年2月~2020年1月の期間では、694mm(27.3in)の降水量のうち平均0.398μg/Lが検出。1995~1996年と1996~1997年に行われた初期の調査と比較すると、TFAの量は3~5倍に増加していたという。
カウフェルド氏は、『Water Research』誌に掲載された2017年の研究で、ドイツのライン川沿いの5か所でTFAのレベルが0.4~1.4μg/Lであることが判明したという報告を引用している。
さらに、フランク氏の提供したデータによると、飲料水のTFA濃度の最大許容値は60µg/Lだが「環境汚染を最小限に抑える」ための目標値は10µg/Lとされている。同氏は高濃度のTFAがラットの肝臓に有害な影響を与えることを示した研究や、高濃度のフッ化物がラットの甲状腺に与えるダメージについての研究結果にも言及した。
一度TFAが環境中に存在すると、それはずっと残ります。現時点で、私達は環境中から大量のTFAを除去する実現可能な方法を持ち合わせていないのです。
Öko-Recherche社、デビッド・ベーリンガー氏
2040年の予測
ベーリンガー氏は、2040年を見据えて冷凍・空調・ヒートポンプにHFOと混合燃料が強く採用される「最大HFO代替シナリオ」を作成。これによれば、現状が続くと欧州の陸地におけるTFAの沈着量は、2020年の約2,000トンから、2040年には年間約10,000トンになると予測している。最も加速する時期は、現在から2030年までの間だ。
ベーリンガー氏とフランク 氏 は、現時点では最終的に環境中に蓄積されるTFAの正確な量や、健康や環境への長期的な影響については、多くの不確定要素があることを認めている。しかし、TFAの残留性とより高い濃度レベルでの有害な影響の可能性を考えると、「TFAの前駆物質の排出を減らす」ことが最善であるとベーリンガーは述べる。
フランク氏は、地下水に含まれるTFAは現在はもちろん、次世代の飲料水にダメージを与えるものであり、直ちに中止すべきだと警告。会議参加者に、同氏が作成した「EUが自然冷媒のみに切り替えることを求める請願書」への署名を呼びかけた。
今回の発表では、HFO-1234yfの分解物であるTFAに焦点が当てられたが、ECOSのコロネン氏は、冷媒の製造も環境や気候に影響を与える要因になっていると指摘。ECOSは冷媒の製造、標準GWP、劣化生成物を含めたライフサイクルGWPを検討するようEUに提案している(TFAは分解されると、少量だがGWP14,000以上のR23ヘ変成する)
製造関連の排出については、カウフェルド氏によると、HFO-1234yfはCO2の10倍のCO2e排出量があるという。
化学業界では、Chemours社、Honeywell 社 、Arkema 社 、Koura 社 (および機器メーカーのダイキン工業株式会社)の4社で構成される「Global Forum for Advanced Climate Technologies(globalFACT)」が最近発表した研究で、TFAの沈着を取り上げている。この研究では、「TFAが人間や生態系に与える影響についての現在の知識をもってすれば、2040年までの予測排出量は有害ではない」と結論づけている。しかし、この研究は、「TFA濃度とその空間分布に関する知識の大きな不確実性は、将来予測される排出量の不確実性に起因する」ことも認めている
参考
Mitsubishi Launches CO2 Heat Pump Water Heater in the U.S.
原著者:マイケル・ギャリー
ATMOsphereネットワーク
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