オーストラリア・シドニーにあるニューサウスウェールズ大学(UNSW)の研究者らの研究によると、大気中のR23レベルの上昇は、重要な分解生成物としてR23を生成するR-1234zeの商業的利用の増加と関連している可能性があると報告した。
ライフサイクルGWPの重要性を改めて示唆
R-1234zeはGWP1未満で、世界的に段階的削減の対象となっているHFCに代わる、低GWPとして注目されるHFOのひとつである。一方、R23はGWPが約12,690と最も高いHFCのひとつだ。
今回のレポート「Photodissociation of CF3CHO provides a new source of CHF3 (HFC-23) in the atmosphere: implications for new refrigerants」にて、研究者らは現時点で決定的な裏付けとなる証拠ではないとした上で、R-1234zeの使用と大気中でのR23生成との関連性を示唆。その変換率は11%±5.5%になり、それも加味したR-1234zeのGWPは、約1,400±700になると報告した。
UNSWの研究は、ベルギーのブリュッセルを拠点とするNGOであるECOS(Environmental Coalition on Standards)が最近発表した報告に続くもので、冷媒の直接的な地球温暖化効果に加えて、その製造プロセスや大気中の分解生成物による気候への影響を考慮した「ライフサイクルGWP」評価の採用を提唱している。
報告書の著者の一人である、UNSWシドニー化学学校講師兼ARC DECRA(Australian Research Council)所属の研究者、クリストファー・ハンセン氏は、先週開催された「Green Cooling Summit」のオンラインプレゼンテーションで、報告書の主要な結果の一部を紹介。
ハンセン氏は、冷媒、発泡剤、推進剤として使用されているR-1234zeは、大気中でトリフルオロアセトアルデヒド(CF3CHO)に分解されると説明。このCF3CHOがどうなるかが、同氏の研究の焦点にあると話した。大気中でこの物質が光分解(光の作用)を受けると、ラジカル分子(CF3とCHO)が生成されて、大気中の良性化合物(CO2とHF)に結合される。
しかし、ハンセン氏はほとんどの研究において、CF3CHOの分解によるR23の収率が、わずか2%にとどまるという報告を引用する。たとえわずかな量のR23でも、大量に蓄積されれば環境に重大な影響を及ぼすと、ハンセン氏は警鐘を鳴らす。
よく研究されている化学物質との比較
このプロセスについてさらに理解を深めるため、ハンセン氏と研究チームはよく研究対象とされる類似化合物、アセトアルデヒド(CH3CHO)の大気中での分解行程を調べた。その結果、CH3CHOを含むフッ素化合物(CF3CHO)が、豊富な化学反応を引き起こすのを抑制する要素は、何もなかったという。
特に、CH3CHOは分解してCH4(メタン)とCOになるが、これはCF3CHOがCHF3(R23)とCOを形成するのと類似しているのである。研究者たちは、0気圧での実験で「CF3CHOからR23への単分子経路が明確に存在する」と結論づけている。ハンセン氏は、大気中でまったく同じとは限らないものの、同様の現象が起きていると指摘した。
しかし、大気中でのCF3CHOとCH3CHOの反応速度を比較すると、CF3CHOの反応速度は約30倍遅く、この光化学反応にアクセスするチャンスはCH3CHOで2回あったのに対して、CF3CHOは11回あった。このことから、ハンセン氏は「CH3CHOと同様に、単純な大気化学モデルでは、放出されたCF3CHO分子の11%±5.5%がR23になる」と結論づけた。これにより、報告書に「R-1234zeの実効的なGWPは約1,400±700となる」という文言を付け加えたわけである。
現在、研究チームはこれらの結果を検証するため、大気中でのCF3CHOのたどる分解プロセスをより明確化するための、実験とモデリングプログラムに取り組んでいる。流管式リアクターの実験による初期の結果は、「今回の結果と一致している」であった。約2ヵ月後には、一連の作業を完了できる見込みだ。
R1234zeを製造している米国のHoneywell社は、R1234zeを従来の冷媒に代わる持続可能な代替品と位置づけ、性能、費用対効果、環境への影響、安全性において顧客のビジネス基準を満たすものと説明している。Honeywell社はUNSWの研究に対するコメントを求められたが、返答はなかった。
参考
Australian Study Suggests Link Between Elevated R23 Levels and Uptake of HFO-1234ze