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【ATMO America 2022】GSPI、EPAにPFASの定義拡大を要請

「米国環境保護庁(EPA)が使用しているPFAS(ペルフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル化合物)の定義を拡大し、特定のHFCやHFO冷媒、冷媒副産物のトリフルオロ酢酸(TFA)などの化学物質を含めるべきだ」

 

グリーンサイエンスポリシー研究所(GSPI)の科学・政策アソシエイトであるリディア・ヤール氏は、「ATMOsphere(ATMO) America Summit 2022」でこの見解を発表した。「ATMO America Summit 2022」は、6月7日から8日にかけてバージニア州アレクサンドリアで開催されたATMOsphere主催の国際会議である。

 

PFASは「毒性があり、人間、動物、植物に生物濃縮し、極めて強い炭素-フッ素化学結合により環境中で極めて耐久性のある何千もの永遠の化学物質」で構成されている。これらは、ノンスティック調理器具、防汚剤、食品包装用化粧品、衣料品など何百もの消費者製品に採用されている。PFASはどこにでも存在するため、飲料水など環境中のさまざまな場所で発見されるに至っている。

 

テフロン加工のフライパンに使用されているPFOAと、3M社のスコッチガードに含まれるPFOSという2つのPFAS化学物質は、がんや生殖障害、内分泌かく乱といった健康被害が発見され、EPAによって米国内で段階的に廃止された。

 

何千種類ものPFASを個別に規制することは困難であるため、科学者たちはPFASを一つの分類として扱うことを強く求めている。しかし、この分類については、2つの異なる定義が存在する。

 

OECD(経済協力開発機構)が昨年発表した定義では、PFASはフッ素化されたメチルまたはメチレン炭素原子を少なくとも1つ含むフッ素化物質とされている。この定義は、「世界中の一流のPFAS科学者たち」に受け入れられているとヤール氏は言い、国防権限法(NDAA)や米国のいくつかの州でも使用されているという。

 

欧州では、5つの国が1月に欧州化学品庁(ECHA)に対し、一部のFガスとTFAを含むPFASをOECDの定義に基づいて規制するよう要請する予定だ。欧州のFガス業界は、HFCsとHFOをPFASに分類することに反発している。「HFCs、HFOs、HCFOsは別個の存在であり、その特性から一般にPFASとはみなされない」と、欧州フルオロカーボン技術委員会(EFCTC)はウェブサイトで見解を述べている。

 

OECDの定義とは対照的に、EPAは化学物質安全・汚染防止局(OCSPP)を通じて、PFASを「少なくとも二つの隣接する炭素原子を含み、一方の炭素が完全にフッ素化され、他方が少なくとも部分的にフッ素化されている」と、より狭く定義している。

 

OECDのPFASの定義には、R134a(HFC)やR1234yf(HFO)などの特定のfガスや、R1234yfの100%とR134aの最大20%が分解されて大気中で生成されるTFAが含まれる。EPAの定義では、FガスやTFA、その他多くの有害化学物質は除外される。

 

TFAとFガスは、フッ素化炭素原子を1つだけ持つ可能性があるため、OECDの定義では「超短鎖型PFAS」と呼ばれている。最もよく知られたPFASで、最も多くの規制を受けているのは、PFOAやPFOSなどの長鎖PFASで、8個の炭素原子を有する。しかし、短鎖および超短鎖PFASは、長鎖PFASの特徴の多くを共有しており、長鎖PFASよりも飲料水からの除去がさらに困難だ。

 

「HFOとTFAは、その共通の化学構造、残留性、有害性の可能性から、PFASとみなされるべきです」とヤール氏は言う。「超短鎖PFAS分子が安全であることを示す指標はありません。EPAの不完全なPFASの定義は、危害を加える余地を残しているのです」

 

ヤール氏は、元国立環境健康科学研究所の所長であったリンダ・バーンバウム氏の言葉を引用し、EPAの毒物局が使用している定義は、国際科学界が使用している定義というよりも、「産業界の定義に近い」とガーディアン誌にて語っている。「これらの化学物質を、実際に深く研究している科学者の意見に、業界はもっと耳を傾けるべきなのです」と、ヤール氏は強調した。

 

化学業界は、FガスメーカーのChemours、Honeywell、Arkema、Koura(および機器メーカーのダイキン工業株式会社)を代表するGlobal Forum for Advanced Climate Technologies(globalFACT)が出資した2021年10月の研究で、TFAの沈殿について調査。同研究は、「TFAが人間と生態系に与える影響に関する現在の知識では、2040年までの予測排出量は有害なものではない」と結論づけた。

 

しかし、この研究はまた、「TFA濃度とその空間分布の知識における主要な不確実性は、将来の予測排出量の不確実性に起因する」と認めている。ChemoursとHoneywellにPFASの定義に関するコメントを求めたが、返答は得られなかった。

 

EPAのPFASのより限定的な定義は、昨年、多くの方面からの批判があった。昨年9月、GSPIと他のいくつかの団体(Environmental Working GroupやNatural Resources Defense Councilなど)の科学者は、EPA長官のマイケル・リーガン氏に書簡を送り、OECDのPFASの定義を採用するよう求めている。この所感で、OECDの定義は科学的に健全で、連邦政府や州のPFAS規制法に含まれている定義と一貫していると、彼らは主張した。

 

また、EPAの定義では多くのHFCやHFO冷媒、そしてヒトや生態系の受容体にリスクをもたらすTFAが除外されていると指摘した。

 

この問題に対して、米国の国会議員も意見を述べている。昨年11月、デボラ・ロス議員(ノースカロライナ州選出、民主党)とナンシー・メイス議員(サウスカロライナ州選出、共和党)は、OECDと同様の考え方でPFASを定義するPFAS定義改善法(HR 5987)を提出した。

 

最近では、ワシントンDCに本拠を置くNGOであるPublic Employees for Environmental Responsibility(PEER)が4月にEPAを提訴し、「EPAがPFASの定義を極めて限定的に採用している理由を説明する文書を隠している」と主張した。

 

その後、EPAは2,500ページ以上の文書を公開したが、6月10日、PEERは声明で、EPAのPFASの作業定義には科学的根拠がなく、州の定義に含まれる数千の化学物質を除外する理由が示されていないことを明らかにしたと発表した。PEERは、PFASの定義の「科学的根拠を覆い隠すかもしれない」EPAの文書の冗長化に、法廷で異議を申し立てるつもりだと付け加えた。

TFAの蓄積

発表の中で、ヤール氏は環境中のTFAの量が増加しているという多くの研究を引用し、その原因を「大気中で反応してTFAを生成するHFCとHFOの広範な使用」にあるとしました。

 

ヤールと共に冷媒の影響に関するセッションに参加したドイツの環境コンサルタント会社Öko-Rechercheのプロジェクトマネージャー、デビッド・ベリンガー氏は、FガスはTFAの重大な発生源である一方で、それだけがその発生源ではないと指摘。

 

TFAは、製造工程(実験室用など)から直接排出され、多くの除草剤や農薬の分解物でもある。それらの発生源が環境中のTFAにどのように寄与しているのか、誰も正確には知らないと話した。

 

しかし、移動式エアコンにHFO-1234yfを使い続けると、将来RAC(冷凍空調)部門がTFAの主要な発生源になる危険性は、十分にあり得るとベーリンガー氏は付け加えた。

 

環境中のTFAの増加の例として、中国の地下水では約17倍、カナダの北極の氷やドイツの植物原料では約10倍のTFA増加が確認されている。北極圏ではHFOやTFAが直接使用されていないため、北極圏での増加は特に注目されている。

 

また、デンマークとドイツの飲料水サンプルの89%と96%からTFAが検出され、中国では血清サンプルの90%以上から「高濃度」のTFAが検出されたことも紹介した。別の研究では、ビールとお茶からそれぞれ6ppb(parts per billion)と2ppbの濃度でTFAが検出されたと指摘した。

 

ドイツ環境庁(UBA)は、飲料水の「健康志向値」を60mg/L(60ppb)、「予防措置値」を10mg/L(10ppb)に設定しているとベーリンガー氏は指摘した。同氏の発表では、自身が参加した研究でドイツ全土の降雨中のTFA濃度が、20年以上前の研究と比較して3~5倍に増加していることを紹介している。

 

先週、EPAは飲料水中のPFOAとPFOSがそれぞれ0.004ppt(1兆分の1)という極めて低いレベルで生涯暴露されると、「免疫系と循環器系を損ない、出生体重の減少につながる」と発表したと、ワシントンポスト紙は伝えている。EPAが2016年に発表したこれらの化学物質の健康勧告は、これまで70pptに設定されていた。

参考

ATMO America: Scientist Urges U.S. EPA to Broaden Definition of PFAS to Include F-Gases, TFA
※本記事は英語で作成後、日本語に翻訳されております。

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