「技術ケーススタディ」では、国内外から自然冷媒技術のリーディングカンパニー達が登壇。近年新製品や新事例が次々と紹介され、自然冷媒という選択肢が国内でも主要な選択肢として認知され始めている。そこで求められるのは、自然冷媒という名目以上の、効率性や利便性だ。登壇したメーカー各社の開発動向からは、環境性と経済性を両立させるソリューションが多数発表された。
フリーズドライ食品製造の革新
年々ニーズが高まっている、国内のフリーズドライ食品。日本食糧新聞の調べによれば、味噌汁・スープといった商品の生産量は、2013年~ 2018年で約40%の伸びを見せる。同製品の製造には、調理・重点・凍結・真空凍結乾燥・包装の5工程を要するが、株式会社前川製作所は真空凍結乾燥の領域にて、アンモニア/CO2の高効率ソリューションを提案する。
真空凍結乾燥機は製品をトロリーに積み、40℃~ 120℃に加熱。冷却設備から伸ばした-40度の配管、通称「コールドトラップ」にて、水分をあつめることで真空状態を維持しつつ、製品の乾燥を促す設計だ。真空凍結乾燥機は、乾燥に欠かせない真空度の安定が不可欠である。
従来の代替フロンを使用したシステムの場合、冷凍機油の存在や、経年劣化による不純物発生で、効率阻害や故障トラブルのリスクを抱えていた。登壇した佐藤 日向子氏によると、アンモニア/CO2はこれらの問題を一挙に解決できるという。

「本システムは、コールドトラップ内を純粋なCO2のみで運用するため、不純物が入りません。またCO2は高圧により、配管内に空気が侵入せず、他冷媒よりも温度変化の制御性に優れています」。同社製品である「NewTon」を活用したシステム運用では、R22の従来型システムとくらべ、51.5%の省エネ効率で運用が可能である。
また「NewTon」と真空凍結乾燥機は、CO2レシーバーを経由したセントラル方式で稼働するため、乾燥機の運用状況に合わせた稼働率のコントロールはもちろん、冷凍機1台が故障した場合のバックアップにも強い。「私達は、今後も省エネ性能や環境配慮、故障時の対応などエンドユーザーの要望を満たせる、ソリューションを提案し続けていきたいと思っています」
大型化と高効率化で新たな付加価値を
パナソニック株式会社アプライアンス社は田部井 聡氏が登壇し、国内外のCO2冷凍機の納入状況、CO2ファミリー構想に加え、トランスクリティカルCO2システムのラインナップの拡充について発表。
同社のCO2冷凍機は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアを対象とする小型容量からスタートした。その後パナソニックは、「大容量化」と「高COPの実現」という、2つの軸で開発を推進。大容量化については、2馬力から10馬力、20馬力、30馬力と開発が進み、2020年度には80馬力のラックシステムの市場投入も予定している。
「テストでは40℃に迫る日本特有の温度下も、問題ない性能を発揮しました」と、田部井氏は話す。

今後開発を進める予定のモジュール化も含め、倉庫や食品加工工場などをターゲットに、新たな市場を開拓したい考えだ。高COP の実現については、2020年度販売予定の水冷式システムが挙げられる。水冷ガスクーラーを採用して運転効率の安定化を可能と、都市型施設や狭所設備、もともと水冷式の設備を保有するエンドユーザーに対する付加価値向上となる。
「今後は排熱回収のシステムの開発も、準備しているところです」。CO2を中心とするノンフロン開発で、リーダーシップを取り続けるパナソニック。来年度のATMOsphere では、続々と新製品の納入事例を聞けるだろう。
水冷式CO2 システムの課題に挑戦
フードテクノエンジニアリング株式会社は低コスト、安定冷却・凍結、おいしさを損なわないという3つの柱を実現できる、冷凍食品製造ソリューションを模索している。
青山 泰介氏は、「食品工場で水冷式CO2冷凍システムを導入する場合、2つの問題を解決する必要があります。1つは始業~終業まで大きく熱負荷が変動する現場で、安定した冷却性能をつくること。もう1 つは、水冷式システムで発生する排熱回収と温水消費とのバランス調整です」と話す。
そこで同社では、2017 年1月、FTE アカデミーに実験用のインピンジメントフリーザーを設置。ま2019年5月には、本社にスパイラルフリーザーを設置して、それぞれで実機ベースの検証を行なった。ちなみに前者は有限会社柴田熔接工作所のCO2冷凍機、後者はパナソニックのCO2 冷凍機とそれぞれ接続している。

FTEアカデミーの実証実験では、熱負荷の変動を加えながらも、庫内温度を-35℃で維持することに成功。そのうえで、54℃の温水を40L/m回収可能という結果を得た。COPも冷却性能のみでは1.38 だったのに対し、排熱回収を含むと2.84まで改善。
本社テストでは、55℃の温水を6L/m 回収し、そのまま加熱側のボイラーに供給することで、ほぼ100%の熱回収を実現。テスト機をCO2冷凍サイクルに用いることで、20kWの省エネやCOP0.75の上昇に寄与するという。
ボイラーの使用燃料も削減され、CO2を34.5t/ 年削減できる計算だ。「ぜひエンドユーザーとメーカーの皆様には、私達のテスト成果を活かし、その成果を体感いただければと思います」
CO2・プロパン両冷媒のソリューションを加速
世界に先駆けて電子膨張弁を開発してきたCarelからは、日本法人であるCAREL Japan の代表取締役、関口 忠夫氏が登壇。中国における、プロパン・CO2ソリューションの事例を発表した。まず紹介されたのは、CO2に対応したCOP効率を向上させるエジェクターである。
同製品は中国・深州のエンドユーザーに対して、アジア初のシステム納入を実現。Carel製のエジェクターを内蔵したCO2トランスクリティカル冷凍機は、現在はショーケースとつないでのデータ検証を開始したところだという。「夏場の高温時でも、エジェクターにより高COPを維持できるかが焦点となるでしょう」と、関口氏は話した。
日本国内でも、2019年のCO2関連製品の売上は前年比50%増で、検証結果がCarelのCO2ソリューションの拡大に大きく影響することだろう。

プロパン機器については、中国・青島の設置業者と協力。Embraco製のコンプレッサーに、同社のBLDCコントロールシステムを備えたショーケースが設置された。定速コンプレッサーと同じ環境下でテスト運転をすると、食品温度、庫内温度ともに安定しただけでなく、約25% の省エネ効果も得られたという。
「CO2だけでなく、プロパンも日本市場で伸びを見せています。私達のビジネスは電子膨張弁を中心に展開していましたが、同コントローラーも日本国内での展開を進めていくつもりです」
ロシアで証明された内蔵型システムの利点
炭化水素内蔵型のコンプレッサーで、家庭用・業務用分野で多くのシェアを獲得するEmbraco。本会議ではギリアーミ・フィゲレード氏が登壇し、ロシアの小売店舗における事例と成果を発表した。
同社が納入したのは、ロシア国内で500店舗以上を展開するスーパーマーケットチェーンのVerniy。なお設置には、現地OEMのCRYSPIが担当している。導入店舗は店舗面積が400㎡、売り場面積が280㎡であり、R404aの別置型システムを採用していた。
店舗は機器設置に際して、コストダウン、メンテナンスの簡便化、レイアウトの柔軟性を求めていた。そしてEmbraco は、内蔵型コンプレッサー「Plugʼn Cool」を提案。店舗は2019 年12 月に改修され、12台のショーケースが設置。その工事期間はわずか2週間だったが、取り回しのしやすさによって短期間内での設置を実現できた。

設置の容易さはもちろんのこと、配管設備がなく漏えいリスクもないので、メンテナンスコストを大幅に削減。従来システムより34%の省エネ効果にもつながった。さらにVerniy は、インバーターテクノロジーにより内部温度制御も容易になるなど、多くのメリットを感じているとフィゲレード氏は説明。
CRYSPIもまた、既存の別置型システムとほぼ同じコストで、ランニングコストははるかに優れているため、導入初日から高い経済効果を実感できたと語る。「現在はアメリカ、ブラジルでもケーススタディを実施しています。日本でもパートナー企業の皆様と一緒に、共同開発プロジェクトを進行中です」
ニーズを押さえた新製品、開発進む
最後に登壇したのは、日本熱源システム株式会社の黒石 広明氏。同社は2019年より、新製品としてCO2ブラインチラーを販売した。ブラインの取り出し温度は-30℃~+5℃で、主に空調や冷凍冷蔵倉庫、フリーザー、製氷機に対応。用途も食品向上に限らず、化学工場や製薬会社などにも向いている。
主な実例としては、2019年1月に納品したアサヒビール株式会社博多・工場、同年10月の芳雄製氷冷蔵株式会社、2020年2月に納品されたばかりの宮下製氷冷蔵株式会社などである。納品から1年が経過したアサヒビールでは、40℃近い夏場の福岡市内でも、一定の温度供給を実現。
「年間COPは平均1.65 を記録しました」と、黒石氏は言う。ブラインチラーの要ともいえる温度供給の安定性も、現場でのデータで証明できたという。

さらに日本熱源システムは、CO2単独冷凍機「スーパーグリーン」の新たなソリューションも拡大中だ。1つは大気中に放出していた排熱を、温ブラインの熱源として利用できる排熱利用型。同シリーズは2020年1月から運用を開始し、随時データを検証中だという。
もう1つは、C級・F級の運転をスイッチできるタイプ。両者を交互に利用したいというニーズに対して、1台でコストやエネルギーのロスを避けられるようにと開発された。また2年前からは、C級・F級を同時稼働できるタイプも運用を開始しているという。
加えて、日本熱源システムはパラレルコンプレッションとエジェクターシステムを搭載した、次世代型のユニットも開発・検証しているところである。「来年この場所で新製品として紹介できるよう、今年度中に実験と検証を重ねてまいります」