2021年3月2日、味の素冷凍食品株式会社はオンラインにてメディア発表会を開催。自社目標である「2020年度内に国内拠点のフリーザーを自然冷媒へと転換」を、2021年3月31日に完了予定であると報告。オンラインの発表会では、約20年の取り組みが発表された。
グループ方針をもとにした計画の「ひとつの節目」
味の素グループは、「私たちは地球的な視野にたち、“食”と“健康”そして、“いのち”のために働き、明日のよりよい生活に貢献します。」というミッションのもと、社会・地球環境の課題解決を図るための基本戦略「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)」を掲げている。
味の素冷凍食品は、ASVを核に2001年より「国内で使用するフリーザーを、2020年度までに脱フロン化する」という目標を立て、20年にもおよぶ段階的な機器更新を実施。その計画が無事予定年度内に終わるということで、同社代表取締役社長の黒崎 正吉氏、取締役専務執行役員 生産本部長の福元哲郎氏、執行役員 生産本部 生産戦略部長の吉野 正二氏らが出席のもと、オンラインでのメディア発表会が実施された。
同社の2000年時点におけるフロン保有量は、特定フロン70t、代替フロン3tであった。フリーザーおよび冷凍冷蔵庫のフロン保有量の内訳を見ると、96%がフリーザーで残り4%が冷凍冷蔵庫。そのため、同社はフリーザーに着目し、最優先で脱フロンを目指したのである。
計画の対象となったのは、群馬県、埼玉県、佐賀県などに位置する国内7工場。ちなみに同社は海外にも合計10社の関連企業を持つが、中国・タイ・フランスの各国拠点でも、脱フロンが完了しているという。
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脱フロン化に向けた課題もひとつずつクリア
脱フロン化の具体的な計画について、吉野氏は大きく3点の課題があったと言及。
①高額な投資コスト:補助金と工場集約により削減
ひとつは、フリーザー更新による高額な投資コストである。計画開始当初、国内には9工場で合計47基のフリーザーがあり、すべての更新を行った場合、投資総額は約140億円になると試算された。
そこで、味の素冷凍食品は生産ラインの集約、設備能力の改善、生産時間延長といった対策を講じ、工場数を9から7へ、フリーザーを47基から27基まで削減。環境省の補助事業も活用して、約90億円まで投資額を削減した。また生産ラインの集約や効率化を図ったことで、ラインを減らしつつも生産能力は微増させることに成功。社会価値・経済価値の両立を実現したのである。
②冷媒漏えいによる環境リスク:検知器、除外装置で社員や近隣へのリスクに対処
2001年の計画開始当時、食品工場や倉庫における主流の自然冷媒はアンモニアであったが、人体に有害な物質であるため、漏えいには細心の注意を払う必要があった。
そこで、味の素冷凍食品はアンモニア漏えい検知器と酸素濃度計を設置し、いち早く漏えいを察知できるようにしつつ、作業者の安全を確保。また除外装置の設置し、機械室・冷凍機内で漏えいした場合も、アンモニアを吸引し希硫酸で中和、大気に放出できるようにすることで、近隣への被害を最小限に食い止める方策を立てた。

③製品の安定供給維持:4種類のプランで商品提供力を維持
最後の課題は、機器更新時における商品供給力の維持である。吉野氏はこの一大プロジェクトにおいて、もっともこの点で苦労したと言及。その上で、味の素冷凍食品は大きく4種類のプランを活用し、機器更新時の負担を極力抑えることに成功した。
- 工場再編時、同じ商品を複数拠点で生産可能に設計
- 隣接ラインとフリーザーを共有し、日差生産でライン停止期間の縮小
- 既存フリーザーの横に新規フリーザーを建設し、停止期間を縮小
- フリーザーの事前工事によつ工期短縮
4のフリーザー事前工事に関しては、既存冷凍機の上、構内通路上に架台を設置するなど、スペースをうまく活用して作業にあたったという。
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2030年の目標で、脱フロンをさらに加速
吉野氏は、今回のプロジェクトで3つの環境成果があったと言及。
①約25%の省エネ効果
- 冷凍機のマルチユニット化
製造負荷に応じて、最大6段階で圧縮機・冷凍機によるフリーザーの制御を可能に - 省エネ型冷凍機の積極導入
高効率モーターの採用で、約5〜10%の効率アップ - 冷凍機設置位置の変更で冷却効率向上
フリーザー近くに配置し、配管距離を短縮 - 米飯フリーザーの負荷軽減
送風温度と段階的に下げ、急激な負荷変動を軽減
こうした取組により、従来のフロン設備と比較して約25%(年間約1億円)の電力削減に至った(比較対象はアンモニア/CO2冷凍機システム)。
②技術進歩による冷媒保有量低下
2001年に導入したアンモニア冷媒冷凍機は、1基につき300kgの冷媒保有量が必要だったという。それが2004年から導入をはじめたアンモニア/CO2冷凍機では150kg/基、2010年には20kg/基と、1/7以下にまで縮小。
2018年からは空気冷媒も併用することで、同程度のアンモニアじゅう保有量ながら、25%の省エネに成功した。
③環境負荷低減
肝心な環境対策についても、2000年には約70t/年あった特定フロン総保有量がゼロに。CO2排出量換算でみると、126,700t-CO2/年が削減される結果となった。
2016年のモントリオール議定書キガリ改正において、日本を含む先進国は2036年までに代替フロン(HFC)を85%削減するという目標が定められている。
それに先立ち、味の素冷凍食品は2030年までに、冷凍冷蔵庫で使用されるHFCを全廃し、自演冷媒へ転換するという計画を進める予定だ。海外拠点も、特定フロン・代替フロンを使用した機器が、フリーザーで約20基、冷凍冷蔵庫で約30台残っている。コロナ禍の状況も注視しつつ、10年計画で脱フロン化を目指す予定だと福元氏は話した。
メディアからの質問に対し、福元氏は今後脱フロン化を進めるにあたり、課題となるのは空調であると話し、メーカーによる技術開発への期待を寄せた。
日本国内の冷凍冷蔵倉庫や食品工場のうち、イニシャルコストや既存機器の耐用年数等の問題から、R22冷媒機器を使用している企業は今も多い。そのなかで、国際的な枠組みを一歩牽引するように自然冷媒転換へ進む国内企業が、こうして公の場でその活動を発表することは、自然冷媒市場の活性化に大きく寄与するものだろう。
味の素冷凍食品は、社会貢献のみならず、省エネ削減など経済的側面も両立させたうえで環境対策を推進してきた。2030年のさらなる目標の達成を願うとともに、その果敢な活動が、他のエンドユーザーにも伝播していくことを期待したい。
参考
フリーザーの冷凍機用フロン冷媒を自然冷媒へ転換(味の素冷凍食品 プレスリリース)