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イオンリテールの新たな取り組みと10年の歩み

イオンリテールは2019年7月、大規模商業施設となる「イオンスタイル岡山青江」をオープンさせた。同店では新たなCO2冷媒対応型のショーケースメーカーとして登場した福島工業製のCO2ショーケース約100台導入し、同システムをスーパーマーケットで採用した初の事例となった。イオングループは2011年に打ち出した「イオン自然冷媒宣言」、さらに遡れば2009 年の導入実験から、約10年にわたって自然冷媒に取り組み続けている。今回新たに生まれた事例について詳細を聞くとともに、イオングループの10年の歩みで得た「手応え」と「課題」を語ってもらった。
 

文: 佐藤 智朗、岡部 玲奈

CO2ショーケース100台を導入した「イオンスタイル岡山青江」

イオンリテール株式会社は、岡山県岡山市北区青江の旧「イオン岡山店」跡に、2019年7月26日、「イオンスタイル岡山青江」をオープンさせた。約7,676㎡の売り場面積を持つ同店には、スーパーマーケットを中心に直営10店舗とテナント10店舗が入居。食品売り場にはJA岡山の産直コーナーが設けられ、新鮮な野菜・フルーツを手にすることができる。30代~ 40代の共稼ぎ・単身の世帯を中心に、地域密着型の店舗として住民の生活を支えている。同店には約100台にCO2ショーケースを採用した。CO2ショーケースは冷凍食品、アイス、水産・農産・畜産エリアで主に使用されているという。

開発本部 建設部 店舗企画グループ マネージャー 成田 暁彦氏

これまで同社はパナソニック株式会社アプライアンス社のCO2ショーケースを採用してきたが、今回同社として初めて福島工業株式会社のCO2ショーケースを採用し、三菱重工サーマルシステムズ株式会社のCO2冷凍機(20馬力相当)10台とそれぞれ繋いでいる。「イオンリテールで使用しているショーケースはオープン型が中心ですが、冷凍食品・アイスクリームは、リーチインショーケース、スライドドア付の平型ショーケースを採用しています」と、イオンリテール 開発本部 建設部 店舗企画グループ マネージャーの成田 暁彦氏は語る。さらに同社は、2019年度内に、岩手県江刺町に「イオンスタイル江刺(仮称)」のオープンも控えており、そこでは全体のショーケースの約40%に、CO2ショーケースが取り入れられる予定だ。

 

イオンリテールでは今まで31店舗、イオングループ全体でも600店舗以上でCO2や炭化水素などの自然冷媒機器を導入してきたが、別置型CO2ショーケースに関してはほとんどにパナソニック製のものを採用してきた。他のメーカーで別置型CO2ショーケースを開発する企業がいなかったことから、それ以外の選択肢が今までなかったというほうが正しいのかもしれない。そのCO2ショーケース市場において、今回新たなプレイヤーとして登場した福島工業。大手コンビニエンスストアのローソン株式会社ではすでに数店舗にて同社のCO2ショーケースを導入済みであるが、今回スーパーマーケットへの導入は初となり、イオングループ全体で見ても初の事例となる。

ディベロッパー本部 建設部 店舗企画グループ 購買担当 片岡 潔氏

前例がない取り組みに対して、ユーザー側の不安や懸念はなかったのだろうか。イオンリテールのディベロッパー本部 建設部 店舗企画グループ 購買担当の片岡 潔氏は、本誌の問いにこう答えてくれた。「ショーケース導入に際して、検討材料となるのはやはり価格面にあります。その点、両社(パナソニックと福島工業)にはコスト面での差はほとんどありませんでした。弊社では従来の別置型R410aショーケースにおいて、福島工業と多くの取引をしてきた経緯があります。私たちが多用する別置型ショーケースにて、多くの実績を有していたことを加味して、イオンスタイル岡山青江では福島工業のCO2ショーケースを導入していこうという流れになったのです」

 

今回の事例ではないが、イオンリテールはCO2冷媒対応のショーケースとして、パナソニックだけでなく株式会社オカムラの内蔵型CO2ショーケースや、グループ全体としても三菱電機株式会社の内蔵型CO2ショーケースなどの導入事例を持つ。小売最大手のイオングループが単一のメーカー以外の機器を選択することは、メーカー各社にコストダウン、性能向上、製品ラインナップ拡充を検討する上で前向きなメッセージにもつながり、かつCO2市場の競争活性化を促す機会を作り出しているのだ。

約10年で得た「手応え」と「課題」

小売業者としては長らく自然冷媒推進の旗振り役として邁進してきたイオングループの取り組みは、2009年8月に、東京都大田区にある「マックスバリュエクスプレス六郷土手駅前店」にて、パナソニックアプライアンス社が研究開発を進めていた国内初のCO2冷凍機システムの実証試験を行なったことが始まりだ。日本初の取り組みとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けつつ実施されたこの2年間の試験を経て、2011年に「イオン自然冷媒宣言」を打ち出した。イオングループはイオンリテールをはじめ、アコレ、マックスバリュ、ミニストップなど多種多様な小売業態を持つが、「イオン自然冷媒宣言」以降、イオンリテールでは2015年度以降のすべての新店舗では最低1台以上の自然冷媒機器を採用しているという。

 

2009年8月の試験実施以来、イオングループは約10年かけて、同社の理念のもとに新店舗でのCO2冷媒採用を推進してきた。イオン株式会社の金丸 治子氏によると、イオングループは2019年9月時点で総合スーパー31店舗、スーパーマーケット298店舗、ドラッグストア285店舗、コンビニエンスストアで21店舗と、店舗規模大小合わせて計635店舗に自然冷媒機器を導入したといい、その実績からも同社の理念を貫く姿勢が見受けられる。「2009年にパナソニックと共同で、日本初の試みに挑戦しました。実際に自然冷媒採用に取り組んでみると、コスト面の懸念はあったものの、エネルギー効率の高さや温度管理の精度の高さから、地球環境保護だけでなく、安定運用や省エネ効果にも寄与することがわかりました」と、金丸氏は述べる。

年々順調に導入事例を増やす中で、運用上のトラブルがない他、従来のR410a、R404aと比較して消費電力に優れている、マイナスの低温帯で陳列するフローズンケースではCO2冷媒の能力がフルに発揮できるなど、多くの利点を目の当たりにしてきたという。

 

「イオンスタイル岡山青江」のような大規模導入も含め、着々と導入店舗数を増やすイオングループだが、過去から現在に至るまで、2つの課題に直面し続けており、それは10年経った今でも変わらずに存在することを明らかにした。1つは「導入コスト」である。冷凍機、ショーケース共に各種メーカーのラインナップは増えているものの、従来のフロン機と比べ導入時点で約1.5倍のコスト差があると、片岡氏は語る。「環境省の補助金を導入することで、このコスト差は約1.1~ 1.2倍にまで抑制することが可能です。年度内にオープンを予定している『イオンスタイル江刺(仮称)』では補助金を導入していますが、『イオンスタイル岡山青江』ではスケジュールの都合で、申請は叶いませんでした」
 

例年、環境省の補助事業の第一次公募は4月中旬から申請が開始される。応募年の翌年2 月末までに完工の上、環境省が業務委託する法人による実地検査も完了させる必要があるのと同時に、現金一括で支払い対応を完了させる必要がある。7月にオープンした「イオンスタイル岡山青江」は、その日程に合わせることが難しかった。同店のように大量のCO2ショーケースを導入する場合、イニシャルコストは従来のHFCより高くなる。補助金の申請が難しい場合でも、イオングループは自然冷媒機器を積極的に導入してきたが、今後自然冷媒機器の促進するにあたり、補助事業の制度見直しの余地は十分残っていると片岡氏は話した。

イオンスタイル岡山青江の店内売り場

もう1つの課題は「商品ラインナップ」だ。「イオンスタイル岡山青江」でのCO2ショーケースの採用率は全体の70%、「イオンスタイル江刺(仮称)」では、全体の40% がCO2ショーケースとなる予定だが、それ以外のショーケースには、HFC機器が使用されている。CO2ショーケースを採用しにくいエリアとして、デリカ(寿司)エリアがある。当該エリアで商品を陳列するショーケースは、13度~18度の中温帯であるが、「CO2冷媒にとって、これらの温度帯に対応することは難しいのか、まだまだラインナップは充実していない」と、片岡氏は述べる。

 

加えて、床からの立ち上げが180mm以下の、いわゆるスーパーローデッキと呼ばれているショーケースも、別置型でCO2冷媒対応の製品が不足気味だ。他のショーケースでは床からの立ち上げが平均550mmほどあり、その中に冷却器が入っているが、スーパーローデッキの場合は冷却器構造が特殊なため、CO2対応の冷却器開発が進んでいないため、対応したCO2ショーケースが存在しない。

三菱重工サーマルシステムズ株式会社のCO2冷凍機

「こうした技術的背景が障壁となっているのか、『イオンスタイル岡山青江』の設計企画を考え始めた当初から、CO2ショーケースのカバーできる範囲は、売り場面積の約70% ほどというのは変わりませんでした。しかし、それでも過去と比較すると、製品ラインナップや性能に『進化』を感じられる場面は多々あります。」と、片岡氏は言う。CO2未対応のショーケースに関しては、R22からR404a、R410aへの転換に留まってしまっているため、今後技術革新が起こり、その売り場にもCO2の光が差し込む日が待ち遠しい。
 

大規模な導入を通じて、国内小売業界での自然冷媒への切り替えに着実に貢献するイオングループ。新店舗での100%自然冷媒化はもちろん、日本で大きな課題となっている既存店での自然冷媒切り替えについても、大幅な配管工事に伴う店舗休業のリスクなど、解決すべき課題は多く残されている。それでも、「イオン自然冷媒宣言」という、崩れることのない基本理念のもとで活動する同社の動きには、期待の念を抱かずにはいられない。今後も、岡山の新店舗のように、多くのメーカーを鼓舞するような事例の数々を、イオングループには生み出し続けてほしいと願う。

 

『アクセレレート・ジャパン』25号より

参考記事:

イオングループの自然冷媒の取り組みに関する2016年記事

イオングループのアコレによる国内初のCO2ブースターシステム導入記事