小売業大手として、いち早く自然冷媒機器の導入に乗り出したイオン株式会社。2011年に「イオン自然冷媒宣言」を出して10年が経ち、1,000店舗以上にCO2、炭化水素ショーケースを採用してきた。『アクセレレート・ジャパン』では、同社環境・社会貢献部部長の鈴木 隆博氏を取材。この10年の総括とともに、イオンのこれからの戦略を聞いた。
炭化水素ショーケースの導入事例も
イオンは2021年2月末までに、国内1,033店舗にて自然冷媒ショーケースを採用してきた。内訳は以下の通りである。
- 総合スーパー(GMS):38店舗
- 食品スーパー&ディスカウントストア(DS):84店舗
- 小型店(アコレ、まいばすけっと):442店舗
- コンビニエンスストア(CVS):22店舗
多いときには、1店舗で100台以上のCO2冷凍冷蔵ショーケースを採用することもあるイオン。ショーケース選択に関しては、パナソニック株式会社、フクシマガリレイ株式会社、三菱重工サーマルシステムズ株式会社など幅広いメーカーを選択肢に、機器を採用してきた。
CO2ショーケースを積極的に採用する一方、炭化水素内蔵ショーケースの採用も進めてきたという。2019年に関東のSM(スーパーマーケット)業態で数台から導入を始めたのを皮切りに、コンビニ業態やGMS(総合スーパー)業態などでもAHT社製R290ショーケースの採用を拡大している。
炭化水素ショーケースの採用は、導入配管等や冷媒特性の懸念はなかったものの、現場では慎重な姿勢も見られたという。多くのR290ショーケースは製品陳列スペースに仕切りがあり、来店客の利便性が制限されるのではというのが主な理由だ。結局、実際に導入した店舗でこうした懸念は杞憂に終わっているという。店舗規模や導入できる条件が揃えば、炭化水素も積極的に奨励したいと鈴木氏は話す。

「イオン自然冷媒宣言」10年の総括と進化
イオンが2011年に出した「イオン自然冷媒宣言」から、ちょうど10年の節目を迎えた。これまでに積み重ねた1,000店舗以上の導入は、絶対数としては順調と考えられるが、グループ全体で運営する店舗数(19,288)から見た割合で考えると、道半ばというのが現在の総括だ。
「『イオン自然冷媒宣言』から10年が経過し、この宣言をさらに進化させる必要があります」(鈴木氏)
その言葉の通り、現在グループ全体で所有している冷媒機器の保有数や、どの機器から代替フロンが漏えいしているのか、各機器のメンテナンスコストはどれだけかかっているのか。冷媒に関する数字を可視化して、今後どう自然冷媒へと切り替えていくかのロードマップ作成を進めている。
「環境面はもちろん経済的なメリットも提示することで、グループ内の各事業会社に冷媒転換への納得感を提供していきたいです。そのうえで、店舗ごとにプライオリティを付けながら、計画的な更新を進めたいと考えています」(鈴木氏)
イオンは2018年3月に、「イオン 脱炭素ビジョン2050」を発表。2050年までに、店舗で排出するCO2等の総量をゼロにするという目標を掲げた。さらに2021年7月、新たに2030年までに国内店舗で使用するエネルギーのうち、50%を再生可能エネルギーに切り替えるという目標を策定。近年の環境の劇的変化や、政策的支援の加速に鑑みて、より早い段階で目標達成を目指しているという。
この目標には、もちろんフロン類の全廃も視野にある。先述の自然冷媒化ロードマップ策定を通じて、ターゲットとする目標年を検討中だ。
「自然冷媒宣言」は、まだ意気込みを伝えるための宣言でした。現在、それだけでは不十分と捉えています。イオンがグループを挙げて進めるあらゆる環境問題への取り組みの一つに、フロン切り替えがあります。その前提で、具体的な手段も踏まえ野心的な目標を設定したいです。
イオン株式会社 環境・社会貢献部部長 鈴木 隆博氏
